富山和子『水と緑と土-伝統を捨てた社会の行方(改版)』(2010.7、中公新書)
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2010/07/190348.html
本書の主題は、日本人と川(水)との関わりです。
歴史的に日本人にとっての最大の課題とは川とどうつきあうかということであり、同時に、日本人にとって自然の恵みとは川が運んでくれる水と土壌の惠みに他なりませんでした。
例えば、日本社会が水稲栽培を中心に発展してきたのも、豊かな水資源が約束されていたからとのこと。
江戸時代以前の日本人にとって、時に川が氾濫することは当然のことで、武田信玄や加藤清正に代表されるかつての治水とは、川を「なだめる」ことだったそうです。
これは、当時の交通が舟運に依存していたことと密接に関連しており、さらに、根底には自然への謙虚な姿勢があったとしています。
ところが、明治中期に堤防という「新鋭技術」が治水の主役として採用されて以来、日本人と川(自然)との関係性は一変し、川は制御すべきものとされました。
つまり、洪水は「押し込める」ものに変化し、その結果、土地利用の高度化(下流部における都市化など)にもつながりました。
そして、この「治水革命」の結果、水害は年とともに激化し、未曾有の記録が高新されるようになったというのです。
また、著者の分析によると、過去の全ての文明は川がもたらした土壌の生産力の中から生まれ、それが失われた時に滅亡したとのこと。
ひるがえって現在の日本人をみると、自国の土地を掠奪し、さらに(大量の食料輸入等を通じて)他国の土壌を掠奪することで「命脈を保っている」のであり、自然の一員という自覚を取り戻し、真の豊かさとは何かということを根底から問い直すことが必要としています。
さらに「それが時間との競争の作業でもあることを、忘れてはならない」としているのです。
本書の初版が世に出てから45年。私たちは著者が鳴らした警鐘を、果たして十分に受け止めてきたでしょうか。
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出所:F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.170
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
(過去の記事はこちらにも掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/