【ブログ】大沼淳一さん「脱原発と地域づくり」(脱成長MTG)

2019年8月25日(日)の午後は、東京・江戸川橋のピープルズ・プラン研究所(PP研)へ。まだまだ昼間は蒸し暑い。

 メトロ早稲田駅から徒歩で向かう途中、消防ポンプの使い方研修等のイベントが行われていました。大きなビニールシートを敷いての放水のデモンストレーションの会場には、水着姿の子どもの姿も。

 到着したPP研の前には、いつもと同じ「脱成長」的な案内の張り紙。

この日14時から開催されたのは、脱成長ミーティング(MTG)第19回公開研究会
 経済成長至上主義から脱却する経済社会のデザイン作りに向けた研究会が、数ヶ月に一度の頻度で開催されています(私は前回(森千香子先生)に続いての参加)。

 この日のテーマは、大沼淳一さん(原子力市民委員会)による「脱原発と地域づくり」。
 大沼さんは1944年仙台市生まれ。名古屋大学大学院で分子生物学を学ばれた後、愛知県環境調査センターで長く公害や環境問題に関する調査研究に携わられた方。  2013年4月に設立された原子力市民委員会の中心メンバーの一人でもあります。

 MTG共同代表の白川真澄さん(PP研)、高坂勝さん(SOSA Project)の「日々の生活の中で、ともすれば風化しかねない原発事故の問題について、改めて学びたい」等による挨拶。

データ満載のスライドと配布資料を基に、大沼さんの話が始まりました(文責・中田)。

 冒頭、驚きの事実が明らかに!
 何と、東日本大震災の発災当日(2011年3月11日)に、ここPP研で大沼さんの研究会(テーマは流域民主主義)が予定されていたとのこと。大沼さんは名古屋駅から新幹線に乗れず、準備をしていた白川さんは帰宅難民になったそうです。
 参加者全員に、当時のひりひりとした不安な気持ちが蘇ってきました。

 「原子力市民委員会提言『原発ゼロ社会への道2014』では、 浪費が豊かさのバロメーターとなるような価値観は捨てよう等と訴えている」

「わが家のエネルギー使用量はもともと低いが、311以降さらに減ってきている。エネルギーを使って環境を身体の快適さに合わせるのではなく、身体の方を環境に馴染ませていけば、エアコンも不要。かつては打ち水など、暑さ寒さに対応する知恵があった」

 「気温と電気消費量の関係を見ると2011年以降で2割程度減少。日本はすでに省エネモードに入っていることは電事連の資料でも明らか。1970年代の暮らしにまで戻れば原発は不要になる」

 「自然エネルギーは変動が激しく質が悪い、というのは言いがかり。変動を克服する技術(スマートグリッドと連系線の強化等)は開発済み。
 原発はベースロード電源と言われるが、これは需要の変動に対応して発電量を変えられないという欠点を示しているもの。バックアップのために無駄な火力発電設備が必要にもなる」

 「原発の経済合理性は、事故処理コストを含まなくても完全に崩壊。世界の原子力発電容量は減少に転じている一方、風力や太陽光発電は大きく伸びている。原子力はもはや斜陽産業」

 「固定価格買い取り制度の貢献は大きかったが、制度設計には不備があった(買い取り価格が高すぎた等)。木質バイオマス発電も大型化が進んだ結果、燃料が不足している」

「1953年の米アイゼンハワー大統領の国連総会演説 “Atoms for Peace” を契機に、国際原子力委員会(IAEA)設立の気運が高まった。一方で核実験の回数は減るどころか急増、翌年には第五福竜丸が死の灰を浴びた。他に延べ1000隻の漁船が被ばく。
 日本では1954年に原子力研究開発予算が国会に提出され、翌年には原子力基本法が成立」

 「日本政府は再生可能エネルギーの前進に水を差している。政府の『火力炊き増し』燃料費試算はインチキ。停止中原発がフル稼働した場合の全発電量を火力で発電した場合の石油使用量で計算している。
 電力料金の伝票には再エネ発電賦課加金は明記されている一方、原発事故の後始末や電源開発促進税として徴収されている額は表示されていない」

  「立地自治体にとっても、原発は、農林水産業や地場産業の衰退など負の遺産になっている。廃炉となっても、当面は廃炉ビジネスで一定の雇用等は確保できるし、普通の地方税交付団体になればやっていける」

 「日本列島は美しく豊か。森林率は世界2位、排他的経済水域の面積は6位。豊富な降水量や気温、降雪量など自然条件にも恵まれている。世界3大漁場も目の前にある。脱成長の議論をする時も、このようなことを再確認しておく必要がある」

 「里山やバイオマス等が注目されている。各地に市民発電所が増えているが、送電システムの改革(発想電の完全分離、再生可能エネルギーの優先接続権や連系線の強化等)が必要。発電ではなく、電力網を買い取って送電会社となったドイツ・シェーナウの事例が参考になる」

休憩を挟んだ後半は、放射能汚染についてです。

  「2012年、全国の34カ所の市民放射能測定室のデータを表示できワンストップで検索できる『みんなのデータサイト』を開設した。土壌汚染マップは、年度ごと、都県ごとに汚染の度合いを検索することができる。プロットをクリックすれば、地点名と汚染データが表示される。
 昨年11月には、汚染マップに解説を加えた『図説・17都県放射能測定マップ+読み解き集』を刊行し、15000冊のヒットとなった。放射能汚染を無かったことにしようという政府や原子力ムラの圧力の中、本当のことを知りたいとおもっている多くの人々がいることが分かった」

 「放射能汚染は、どこまでも続いている。 土壌の測定を行った結果、100年後も思ったほど減衰しないことが分かった。半減期30年のCs-137は、物理的減衰と気象かく乱で減衰するが、10分の1程度にしかならない」

 「チェルノブイリ法では年間追加被ばく線量5mSv以上の区域は居住不可。これに比べると日本のゾーニングはゆるやか。福島県にチェルノブイリ法を当てはめれば、現在でも多くの市町村が移住すべき地域に相当する。特にジビエの汚染は深刻」

 「放射能に関する国際機関、及び保健物理学という学問体系も、全体が国際原子力ロビー及び安保理事会常任理事国(=核保有国)に飲み込まれている。日本では、マスコミまでが国連科学委員会の報告等を鵜呑みにしているのは問題」

最後は質疑応答。
 「電気自動車の普及等から世界の電力の使用量は増えていくのでは」との質問には、
 「省エネ意識は高まっており、太陽光エネルギー(太陽光や風力など)をスマートグリッドでうまく回していくこと等で十分対応できる。悲観していない」等の回答。

 「廃炉ビジネスには、高線量被曝などの危険性があるのでは」との質問には、
 「事故を起こした福島第一原発の廃炉には多くの課題がある。原子力市民委員会は石棺で100年間程度放置することを提案している。
 一方、事故を起こしていない原発の廃炉の危険性は事故炉の比ではなく、既にドイツなどで先進事例が蓄積しつつある」

 さらには、「福島での放射能汚染は現在も収まっていない。帰還困難区域から周辺に放射能は飛んでおり、雨が降るたびに大量の放射能が川や海に流出している。中間貯蔵施設の議論については、汚染した物質は拡散しないで集中管理することが原則」等の発言も。

17時の終了時間は回ってたものの、最後に私から、
 「汚染の現状を把握し警鐘を鳴らすことの重要性は理解できるが、一方で帰還を決意し、農業や地域おこし等に取り組んでいる方達もいる。そのような方々の気持ちや努力を考えると、その場所の危険性ばかり強調することは慎重であるべきでは」等と、感想を述べさせて頂き、終了後の懇親会の場も含めて、率直に意見交換させて頂きました。
 原子力市民委員会の中でも、様々な議論があるようです(時には、両論併記で提言が出されているそうです)。

 311の現実に引き戻されたような、重みが残った会でした。