【ブログ】井本喜久さん「次世代型コンパクト農業で耕作放棄地ゼロ」(霞ヶ関ばたけ)

2019年8月28日(水)は雨模様。
 東京・大手町のサードプレイス・ 3×3 Lab Future へ。

この日、7時30分から開催されたのは、第157回霞ヶ関ばたけ。
 テーマは、井本喜久さん((一社)The CAMPus 代表理事)をお招きしての「次世代型コンパクト農業で耕作放棄地ゼロへ」。

 主催者の松尾代表から霞ヶ関ばたけの説明、33ラボフューチャーの方から会場の説明。数日前に誰かが植え込みにコオロギを放していったそうで、自然のBGMが流れています。

 まずはテーブル毎、そして全体で自己紹介。
 群馬・足利でブドウ栽培とワイン作りに取り組んでおられる方、畑で埋もれているものをブランディングする会社を起こされた方、IT企業で人材育成のために新入社員を畑に連れて行ったのをきっかけに自分がはまってしまったという方など。

井本さんの話が始まりました(文責・中田)。
 「インターネットでオンラインの農学校を運営している。今、都市の人は農や食に強い関心を持っている。『農ライフ イズ ビューティフル』。
 自分も来月から月の半分は故郷の広島・竹原市で農的暮らしを実践する」

 「世界を『農』でオモシロくしたい。ビジネスだけではなく、暮らしが基本にある。新型農家(次世代型コンパクト農業)を育成したい」

 「亡くなった父は兼業稲作農家で、自分も18歳まで手伝っていたが、その時は苦痛でしかなかった。
 遺された農地や山林を自分一人では守れないため、地元の農事組合法人に管理をお願いに行った時、農業では70歳が若手と聞き、日本の農業は危険な状態にあることを知った」

 「そこから日本の農業、限界集落を元気にしたいという思いが強くなり、1年間かけて準備した。
 全国の100人くらいの農家を回った。各地には、めちゃくちゃ面白い人たちがいる。かっこいい。62名の方に、インターネット農学校の『教授』になってもらっている」

 「月500円の有料のウェブマガジンを配信。購読者は1100人ほど。実践者の方々の暮らしの様子や哲学など。100人いれば100通りの哲学がある。実践者の『農』の中にある色んな智恵を学び、得られた智恵を地域の活性化につなげていきたい」

 「キャンパスプロというリアルスクールを来春オープン予定。目指すのはコンパクト農業(0.5haで売上げ1000万円以上)。
 コンパクト農家の実例は全国各地にある。例えば、広島・福山の数十頭規模の養豚農家は、山林に放牧し、飼料には食品残さも活用。飲食店等との直接取引で高収益を上げている」

「これからの時代、全国津々浦々に農地が余ってくる。耕作放棄地が増えてくる。こんなにチャンスのある時代はない。畑なのにブルーオーシャン(笑)」

 「地元(竹原市田万里))でタマリ・オーガニックビレッジ・プロジェクトを立ち上げた。
 中山間だが、空港、新幹線の駅、竹原市街地から1時間ほどとアクセスは良い。旧小学校を拠点にして2.4haの農地を借り受け、今後5年で年商8000万円、粗利60%を目指している」

 「ブランドづくり、人づくり(学びと交流、リーダー育成)、コミュニティづくり(地域住民との交流)、持続性づくりがポイント。
 重要なのはアウトプットをどう作るか。そのために必要なのは、商品と場のブランドづくり。菜種油、米ぬか油、米粉の揚げパンを製品化」

「今までの農家は作ることに集中し過ぎて売り方が分からなかった。行き着く形は六次産業化で、価格の決定力を持つことが重要。
 新規就農に必要なのはコミュニケーション力。地元のおばあちゃんと友達になり、信頼を得れば、土地や家も借りやすくなる。
 また、1人ではなく、ビジョンや夢を共有できる仲間がいることも重要」

 「2030年(SDGsの目標年)に、日本の耕作放棄地をゼロにすることが目標」

「自分は東京農業大学在学中から渋谷のイベント会社でアルバイトし、その後、地元に帰ってアパレルを起業したが3000万円の借金を作って3年で撤退。渋谷の元の会社に拾ってもらって5年間働いて借金を返し、再度起業して現在に至る。
 振り返ってみると、1本の線がつながっている」-

8時25分からはテーブル、そして全体で感想等のシェア。
 「製品の売り込み方に関心がある」
 「家庭菜園など都市のなかでも農的暮らしはできるのでは」等の感想。

 引き続き、全体での質疑応答。
 なかなか新規就農は難しいのでは、との質問には、
 「農業はハードルが高いと思われがちだが、飲食店経営等と同じ。淡路島で新規就農した人は、その前に4つ位アルバイトして学んだ。実際に見て歩くことが大事。
 成功者に学び、近くで就農することも有効。『教授』など先人達の智恵を繋いでいきたい」等の回答。

 「実際には売れていない六次産業化製品が多いのでは」との質問には、
 「自分でもジンジャーシロップを製品化している。高く売ろうとするのではなく、伝えたいものを作ることが大事。世界中のジンジャーシロップを飲んで、情熱を込めて作った。情熱があれば絶対に売れる」 等の回答。

日本農業の将来に明るい希望が感じられる報告に、会場は大いに盛り上がりました。

 しかし・・・、
 迷いましたが、最後に手を挙げて、会場の空気を読まない感想を述べさせてもらいました。
 「退職して移住・新規就農した友人がいる。情熱もコミュニケーション力もある。ところが、主な販売先だった直売所が使えなくなり、販路に苦慮しているという現実も聞いている。東京の中央で、エアコンの効いた快適な空間でお聞きした成功事例等は素晴らしい内容だが、農業の現場のことを考えると、正直、違和感を覚える」

 井本さんからは
 「新規に起業して苦しいのは農業に限った話ではない。農業に関心がある人たちに希望を持ってもらい、農業の楽しさを分かってもらうために、成功事例を中心に紹介している。『教授』の方達とつなぐこともできる」といった回答。

 違和感はそれとして、全体として日本農業のブレークスルーを予感させる、大いに力づけられた勉強会でした。
 従来の常識にとらわれない井本さんの新たな実践に、これからも注目していきたいと思います。