国内でも新型肺炎の感染拡大が止まりません。不安も拡散。
2020年2月14日(金)の夕方、都心のマンションの一室で浦河ひがし町診療所〜百年の夢@プラチナ庵と題するイベントが開催されました。
参加者は15名ほどです。
19時過ぎ、主催者の入江杏さん(ミシュカの森)から、この日のゲスト・斉藤道雄さんの紹介がありました。
斉藤さんはTBSワシントン支局長等を歴任されたジャーリストで、手話と日本語のバイリンガル教育を実践する明晴学園の校長も務めれらた方。
北海道浦河町に23年に渡って通われ、2002年には『悩む力~べてるの家の人々』で第24回講談社ノンフィクション賞を受賞。現地での映画上映、5月予定の新著の出版に先立ち、この日のイベントを企画されたとのことです。
大きなモニターを使って斉藤さんの話が始まりました(文責・中田)。
ちなみに待ち受け画面は、浦河町にあるご自宅の庭に来たというキタキツネです。
「ひがし町診療所は、2014年に川村敏明医師が開設した精神科クリニック。スタッフは医師、ソーシャルワーカー、看護師など約30人」
「川村医師の『精神障害イコール不幸ではない』との言葉は、呉秀三(東大医学部の事実上の初代精神科教授)以来の百年間、この国の精神医療は患者をしあわせにしなかったことへの対抗言説。
次の百年、まったく違う世界への夢がある」
そして、斉藤さんが取材・編集された4本のビデオが上映されました。
最初は医学教育用DVD「地域に生きる精神科」。
相模女子大・浮ヶ谷幸代教授が企画したもので、診療所に通う当事者や川村医師、スタッフの姿が描かれています。
2本目は「すみれハウスのお好み焼きパーティー」。
重症患者であっても入院せずに街(グループホーム)で暮らしている女性たち。「招待されていないだけど」と川村医師が登場すると、大笑いするみんなの声と顔が印象的です。
3本目は、浦河町で20年前から開かれている「応援ミーティング」を紹介したもの。
虐待の恐れがある場合等に、専門家が指導するのではなく、当事者を多くの人が取り囲んで応援し、一緒に考え悩むというもの。「応援は質より量」とのこと。
4本目は、その応援ミーティングを東京大学教育学部のシンポジウムの一環として公開実演した時の様子。ここでも登壇した当事者の笑顔が印象的です。
「早くアメ横に行きたい」という発言に会場も爆笑。
後半は、入江さんが準備して下さった飲みものや軽食を頂きながらの意見交換。斉藤さんもワインを差し入れて下さったそうです。
「精神病のことは、普通の人が普通に考えると深刻になる一方。出口がない。笑わないとやっていけない。ある意味、耐えるために笑っているという面がある」
「川村先生自身も変わってきている。最初の頃は何とか治療したいと考えておられたのが、今は寄り添って、どうすれば少しでも楽になるかを考えている。医者任せにせず、患者自身にも悩み考えてもらうために、相手をみて時には厳しい発言もする。
そのような、ひがし町診療所の取組みを、多くの人に知ってもらいたい」
「精神障害者の犯罪率は健常者より低い。ただ、家族や身内に対する凶悪犯罪は多い傾向」
「当事者たちは、専門家にできないことを指導されてもできない。そうではなく、必ずしも解決にはつながらなくとも、関心をもってくれる、一緒に考え悩んでくれる人が回りにいることが大切。自分と同じような頼りない人たち」
「『場』の力は大きい。虐待は社会が起こすもの。地域を変えることが、当事者や家族を支えていくことにつながる」
「音楽や農作業も有効。ふだんは粗暴な振る舞いをする当事者も、楽器を演奏したり田植えをしたりする時は、暴れる必要がないと思うようだ」
この日は、傾聴のボランティアをされている方、ピアグループ(相互支援組織)のサポートをされている方、就労支援施設で「幻聴妄想かるた」を作成されている方等も参加されていました。
そのなかのお1人の、
「自分のことを語れるようになることは、普通の人にも必要なことでは」という言葉が心に残りました。
これら分野のことについてはよく知らず、あるいは偏見を持っていた自分にとって、この日みせて頂いたビデオとお話は、衝撃的とも言えるものでした。
きさくに話して下さった斉藤さん、貴重な機会を頂いた入江さんに感謝したいと思います。有難うございました。