【ほんのさわり】佐藤俊樹『桜が創った「日本」』

佐藤俊樹『桜が創った「日本」-ソメイヨシノ 起源への旅』(2005.2、岩波新書)
  https://www.iwanami.co.jp/book/b268755.html

 1963年広島生まれの社会学者(比較社会学、日本社会論)による「ソメイヨシノ革命」の書です。
 今や日本の桜の約8割を占める(著者)ソメイヨシノは、江戸時代末期に染井村(現在の東京・駒込)で開発され、明治以降、日本全国に(さらには東アジアにも)急速に広がっていきました。
 すべてクローン(接ぎ木等による栄養繁殖)であるため、一斉に咲いて一面を同じ色で彩り、短い開花期の後に一斉に散っていくという性質を有しています。

 「桜の花はまるで空から降ってくる」「一面の花に胸が締め付けられる」(著者)という桜の景色は、実は明治以降に新しく創られたものなのですが、あたかも古来の「日本らしさ」の象徴であるかのように捉えられてきました。

 本書では、歴史の浅いソメイヨシノが「日本」のイメージを創っていった様子が、多くの文献等を参照しつつ丹念に説明されています。
 なお、豆知識欄で紹介した開花日や桜前線も、ソメイヨシノを標準木としているからこそ可能となったとも言えます。

 また、桜は時にナショナリズムや軍国主義と結び付けらて語られることがありますが、明治以降、ソメイヨシノが急速に普及した本当の理由は「経済性」だったことを明らかにしています。
 苗は大量生産しやすく、根付きもよく、生育も早かったのです。

 一方、ソメイヨシノを「不自然」「俗悪」と主張する意見も一部にありますが、著者はこれにも反論しています。
 「人間は自然と人工を分けたがるが、人工も環境の一部である。ソメイヨシノは、彼らを取り巻く(人間社会を含む)生態系全体にうまく適応して、空前の大繁栄を勝ち得た」とし、日本社会の多様性が進むなかで、「桜らしさ=自然=日本らしさ」という図式も解体されていくものと予想しています。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 No.188、2020年3月9日(月)[和暦 如月十五日]
  (過去の記事はこちらに掲載)
  http://food-mileage.jp/category/br/