【オーシャン・カレント】桜と日本文学

  (福島・富岡町 夜ノ森)

古来、多くの和歌や俳句、小説に様々な桜が描かれています。それらは桜自体を描写したというよりは、作者の心情を反映したものです。
 以下、そのごく一部を紹介してみますが、これらを読むと、やはり日本人にとって桜は特別な花なのかも知れません。

「あしひきの 山桜花 日並べて かく咲きたらば いと恋ひめやも」(山部赤人、万葉集)
「久かたの ひかりのどけき 春の日に しづ心なく 花のちるなむ」(紀友則、古近和歌集)
「行き暮れて 木の下陰を 宿とせば 花や今宵の 主ならまし」(平家物語)

「ねがはくは 花のしたにて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」(西行)
「我身世に ふるともなしの ながめして いく春風に 花の散るらん」(藤原定家、拾遺愚草)
「ここにても 雲井の桜 咲きにけり ただかりそめの 宿と思ふに」(後醍醐帝、新葉和歌集)

「咲いた桜に なぜ駒つなぐ 駒が勇めば 花が散る」(山家鳥虫歌)
「花の雲 鐘は上野か 浅草か」(松尾芭蕉)
「人恋し 灯ともし頃を 桜ちる」(加舎白雄)
「敷島の 大和心を 人とはば 朝日に匂ふ 山桜花」(本居宣長)

「いでいで夢よ、今こそ花降る夜半、さめきてうたへや、ふるき歌を」(石川啄木)
「春のうららの隅田川、櫂のしづくも花と散る」(滝廉太郎)
「大和男と生まれなば 散兵線の花と散れ」(加藤明勝)

「清水へ 祇園をよぎる 桜月夜 こよひ逢ふ人 みなうつくしき」(与謝野晶子)
「桜の樹の下には屍体が埋まってゐる」(梶井基次郎)

 まだまだ多くの名作がありますが、最後に紹介するのは2011年4月27日付の日経新聞コラム「春秋」欄で紹介されていたもの。
 被災者の方が投句されたものだそうです。

「さくらさくらさくらさくら万の死者」

 間もなく東日本大震災から丸9年。日本人は桜に鎮魂の象徴というイメージも付け加えたのです。
 3月14日には、桜の名所である富岡町・夜ノ森駅を含む常磐線が9年ぶりに全線再開します。

注:小川和佑『桜の文学史』(2004.2、文春新書)等を参考にさせて頂きました。
 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166603633

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 No.188、2020年3月9日(月)[和暦 如月十五日]
 (過去の記事はこちらに掲載)
  http://food-mileage.jp/category/pr/