
-吉田篤弘『つむじ風食堂の夜』(2005.11、ちくま文庫)-
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480421746/
1962年東京生まれの著者による味わい深い小説。映画化もされているようです。
舞台は東京・下町を思わせる「月舟町」の一角にある大衆向けの食堂。看板は出ていないのに、東西南北から風が吹き募る十字路にあるため、いつしか「つむじ風食堂」と呼ばれるようになりました。
そして風に吹き寄せられるように、毎夜、風変わりな常連客が集まってきます。
主人公(私)は、アパートの屋根裏部屋で雨を降らせる研究をしているライター。
空間移動できる装置を持っている帽子屋に、イルクーツクに行きたいと言った果物屋の若い主人。デ・ニーロに似た口の悪い古本屋の親方。注文を迷っている主人公に「迷う人は嫌い」と言葉を投げつけたのは、同じアパートに住む売れない舞台女優。
どちらかと言えばモノクロに近い物語に、鮮やかな彩を添えているのが果物です。
毎夜、遅くまで店を開け、いつも本を読んでいる果物屋の青年。
その手元に置かれているオレンジの意味を問うと、「オレンジに電球の灯火が反映するでしょう? 本を読むのにちょうどいいぐあいの淡い光になるんです」という答が帰ってきます。
帰宅して自室に向かう暗い階段を登っていると、途中に淡い光がともっていました。舞台女優が置いたオレンジには「ごめん、言い過ぎた」というメモが添えられていました。
食堂とは単に食事をするだけの場所ではなく、人と人とが交わり、多くの物語が生まれる場です。
出所:
F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
No.192、2020年5月7日(木)[和暦 卯月十五日]
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/