−古沢 広祐『食・農・環境とSDGs−持続可能な社会のトータルビジョン』(2020.2、農山漁村文化協会)−
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著者は1950年東京生まれ。京都大学大学院農学研究科で博士課程(農林経済)を習得、現在は國學院大學経済学部教授(本書「おわりに」によると、3月末で定年退職とのこと)。
環境社会経済学や持続可能社会論を専門とする研究者であると同時に、NGO等で地球市民的な活動にも積極的に取り組んで来られた方で、様々な国際的な会合(1992年地球サミット、2015年COP15会合、国連総会等)にも参加されています。
著者の問題意識と提言内容は明確です。
マネー・金融資本優先の現代資本主義社会は、地球環境問題、経済格差、社会的軋轢等を生み出しており、持続可能性の視点から根本的な転換を求められているという歴史的な認識。その上で、第一次産業を中核とする有機的連携・循環共生社会への変革を目指すべきとしています。
そして食と農の復権は、下からの社会変革の具体的な舞台になる可能性を秘めているとし、「有機農業の展開こそが、新しいライフスタイルやパラダイムを展望するための先駆的形態を体現しているのではないか」としているのです。
著者は、食と農を、大地(自然)と人間をつなぐ「へその緒」に例えています。
農業は、歴史的に自然の多様性と呼応し合いながら、精神的・宗教的意味を含む文化的な多様性を育むなど、人間と社会の根幹を支える土台を形成してきました。食とは、単なる栄養のかたまりではないのです。
その意味で、現在、注目されている食料主権(food sovereignty)という言葉は、「食の尊厳性」という訳の方が適当ともしています。
また、消費者サイドの価値観の変化(環境配慮、エシカル消費等)が、社会を大きく変える時代になっているとの指摘もあります。
比較的分厚い学術書でもありますが、国内外の事例等が豊富に紹介されるなど記述は平易で、持続可能な将来社会に向けての考察と実践を模索している人にとっては必携のテキストです。
出所:
F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
No.196、2020年7月5日(日)[和暦 皐月十五日]
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
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