【メルマガ】F.M.Letter No.198

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.198◇
 2020年8月4日(火)[和暦 水無月十五日発行]
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◆ F.M.豆知識  世界の貿易額の推移と見通し
◆ O.カレント  個人からの社会変革(環境白書から)
◆ ほんのさわり 中野佳裕「いまこそ〈健全な社会〉へ」
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 ようやく梅雨が明けたと思うと連日の猛暑。コロナ感染拡大も収まらず、例年とは異なる8月の風景です。今号はグローバリゼーションとコロナ、個人のできること等について考えてみました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
  https://food-mileage.jp/category/mame/

−世界の貿易額の推移と見通し−

 過去数十年の間、世界の経済活動は地球的規模に拡大してきました(グローバリゼーション)。
 リンク先の図198は、世界の貿易額(輸出額)の推移と、2020年の見通しを示したものです。
  https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2020/08/198_trade.pdf

 IMF(国際通貨基金)のデータによると、1970年代頃から増大し始めた世界の貿易額は、次第にペースを早め、2000年度に入ってから加速度的に急増しました。
 2008〜9年の世界金融危機等から減少した年はあるものの、現在の世界の貿易総額は20兆ドル近くと、1950年代の200倍以上、1990年代に比べても4倍以上という巨大なレベルにあります。
 なお、このような貿易(及び人の移動)の増大は地球環境にも大きな負荷を与えており、IEA(国際エネルギー機関)によると、世界の二酸化炭素排出量の25%(2017年)は運輸によるものとのことです。

 さて、今回の新型コロナウイルスのグローバルな感染拡大は、各国のロックダウン政策もあり、世界貿易に大きな影響を及ぼしています。WTO(世界貿易機関)の4月時点の予測によると、2020年の世界貿易の減少率は13〜32%と、世界金融危機を超えるものと見通しています。
(もっともWTOは2021年以降は不透明ながら回復すると見通しており、6月の新しいプレスリリースでは「4月の悲観シナリオに達する可能性は低下した」との見方を示しています。)

 地球的な環境制約、グローバル金融システムの脆弱さに加え、今回のコロナ禍により、右肩上がりで進展してきたグローバリゼーションは、いよいよ頭打ちの状況となるのかも知れません。

[資料]
 IMF “The International Financial Statistics”
  https://data.imf.org/?sk=4c514d48-b6ba-49ed-8ab9-52b0c1a0179b
 IEA“CO2 Emissions from Fuel Combustion”
  https://www.iea.org/subscribe-to-data-services/co2-emissions-statistics
 外務省HP「貿易統計・見通しに関するWTOプレスリリース(2020年4月8日)」
  https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/it/page25_001965.html

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−個人からの社会変革(環境白書から)−

出典:環境省『令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』 p.121

現在の世界は、気候変動、感染症の拡大などグローバルで複合的な危機の下にありますが、この危機の背景には、豊かな便利な生活を追い求めてきた私たち自身のライフスタイルがあります。
 2020年6月に公表された「令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」は、「一人一人から始まる社会変革に向けた取組」と題した1章を設け、持続可能な未来のための望ましいライフスタイルについて考察しています。

 日本の温室効果ガス排出量の約6割は家庭から排出されていることから、日常生活の分野ごとに、具体的な取組みのヒントを提言しているのです。
 住まいについては、再生可能エネルギー由来の電気の購入や地域の木材等の利用により暮らしに循環を取り入れること、衣服についてはリユース・リサイクルやオーガニックコットンの利用等が重要としています。

 食については、地産地消、有機食品の選択、食品ロスの削減等により環境負荷を低減させていくことが重要としています。オーガニックタウン等の事例も紹介されています。
 また、フード・マイレージについても、地域内での経済循環を高め、地域の風土や文化を学ぶ食育にも寄与するものと評価しています。

 複雑化したグローバル危機の下、私たちは立ちすくみ、あるいは右往左往することなく、自らの主体的な選択を通じてライフスタイル・イノベーションを実現し、社会変革を促していくという姿勢が大切です。

[参考]
 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(環境省ホームページ)
  http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
  https://food-mileage.jp/category/br/

−中野佳裕「いまこそ〈健全な社会〉へ」(岩波書店『世界』、2020年8月号所収)
  https://www.iwanami.co.jp/book/b521302.html

今回は書籍ではなく雑誌の記事を紹介させて頂きます。
 著者は1977年山口県生まれ。国際基督教大学社会科学研究所勤務等を経て、現在は早稲田大学地域・地域間研究機構(ORIS)次席研究員/研究院講師。
 持続可能な未来社会を構想するコミュニティ・デザイン理論の研究がご専門です。

 今回の「前代未聞のコロナ危機」の背景には、過去数十年の経済のグローバル化の下で蓄積されてきたリスクがあるとします。
 そのリスクは、工場の海外移転に伴う格差拡大等の社会的リスク、移動の増大による大気汚染等の生態学的リスク、都市化や工業的畜産の発展等の疫学的リスク、国際的なテロ活動など安全保障上のリスクなど複合的なもので、狭い意味での「豊かさ」を追い求めてきたこれまでの経済成長主義路線のなかで蓄積されてきました。

 現在の危機を抜け出すためには、著者はパラダイムの変換が必要と訴えます。社会正義と環境正義を両立させ、人間の自律性を高めていく「健全な社会」創造を目指すべきとしているのです。
 具板的にはローカリゼーション運動(スローフード、産直連携、コミュニティ・エネルギー等)に注目しています。
 これらは「共(コモン)」の構築を目指す運動であり、コロナ危機は、〈共〉の構築を基盤とした多極分散型で多元的な社会への移行の可能性を示しているというのです。

 今こそ、著者の言う「コロナとともに考えるトランジション・デザイン」(本稿の副題)が必要とされています。

[参考]
 ポスト資本主義の時代(中野佳裕先生ウェブサイト)
  http://postcapitalism.jp/index/profile/

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 〇 コロナと農、食[7/28]
  https://food-mileage.jp/2020/07/28/blog-272/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 奥沢ブッククラブ第58回(吉田篤弘『つむじ風食堂の夜』)
 日時:2020年8月10日 (月)19:00〜
 場所:オンライン(ZOOM)
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/1410844969305786

○ 脱炭素社会のビジョンを考えるオンライン連続セミナー
  第3回「気候正義」
 日時:2020年8月20日(木)18:30〜20:00
 場所:オンライン(ZOOM)
 主催:気候ネットワーク
 (詳細、問合せ等↓)
  https://www.kikonet.org/event/2020-08-20

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「ウナギの稚魚は、江戸時代から密漁禁止だったのよ。見つかったらすぐに奉行所行きだったんだから」
「えっ、そうなの?」
「お白州(シラス)ウナギだけに」

 コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載してあります。
  https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.199は8月19日(水)[和暦 文月朔日]に配信予定です(わっ、いよいよ200号間近!)
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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