【ほんのさわり】中野佳裕「いまこそ〈健全な社会〉へ」

−中野佳裕「いまこそ〈健全な社会〉へ」(岩波書店『世界』、2020年8月号所収)
  https://www.iwanami.co.jp/book/b521302.html

今回は書籍ではなく雑誌の記事を紹介させて頂きます。
 著者は1977年山口県生まれ。国際基督教大学社会科学研究所勤務等を経て、現在は早稲田大学地域・地域間研究機構(ORIS)次席研究員/研究院講師。
 持続可能な未来社会を構想するコミュニティ・デザイン理論の研究がご専門です。

 今回の「前代未聞のコロナ危機」の背景には、過去数十年の経済のグローバル化の下で蓄積されてきたリスクがあるとします。
 そのリスクは、工場の海外移転に伴う格差拡大等の社会的リスク、移動の増大による大気汚染等の生態学的リスク、都市化や工業的畜産の発展等の疫学的リスク、国際的なテロ活動など安全保障上のリスクなど複合的なもので、狭い意味での「豊かさ」を追い求めてきたこれまでの経済成長主義路線のなかで蓄積されてきました。

 現在の危機を抜け出すためには、著者はパラダイムの変換が必要と訴えます。社会正義と環境正義を両立させ、人間の自律性を高めていく「健全な社会」創造を目指すべきとしているのです。
 具板的にはローカリゼーション運動(スローフード、産直連携、コミュニティ・エネルギー等)に注目しています。
 これらは「共(コモン)」の構築を目指す運動であり、コロナ危機は、〈共〉の構築を基盤とした多極分散型で多元的な社会への移行の可能性を示しているというのです。

 今こそ、著者の言う「コロナとともに考えるトランジション・デザイン」(本稿の副題)が必要とされています。

[参考]
 ポスト資本主義の時代(中野佳裕先生ウェブサイト)
  http://postcapitalism.jp/index/profile/