−ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史−文明の構造と人類の幸福−』(上下、河出書房新社、2016.9) −
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309226712/
農業革命は、人類史上最大の詐欺であった。
それ以前の狩猟採集民は、より刺激的で多様な時間を送り、バランスの取れた食生活を謳歌し、飢えや感染症のリスクも小さかった。ところが人類(ホモ・サピエンス)は農耕を始めたこと(農業革命)で、確かに食糧の生産量は増加したものの、人口爆発とエリート層の形成(身分格差の生成)につながったたけで、平均的な農耕民は、それまでの平均的な狩猟採集民よりも苦労して長時間働くようになったにもかかわらず、見返りに得られる食べ物は劣ってしまったのだ。
しかし、その責任は、王や聖職者、あるいは商人に帰せられるものではない。犯人は小麦、稲、ジャガイモなどの植物種である。つまり、人類がそれらを栽培化したのではなく、それら植物種によって人類が家畜化されたのである。
1976年生まれの歴史学者(イスラエル・ヘブライ大)によるこの世界的ベストセラーを最初に読んだ時、最も印象に残ったのが以上の記述です。衝撃を受けました。
著者は250万年前の人類の誕生以降の人類史を俯瞰し、なぜ、人類の中でもネアンデルタール人等に比べて肉体的には劣っていた私たち(ホモ・サピエンス)が、地球上の覇者になり得たかについて考察しています。
その道筋を決めたのは、7万年前の認知革命、1万2千年前の農業革命、そしてわずか500年に始まった科学革命(産業革命)であったとのこと。また、私たちの文明は虚構(宗教、資本主義、貨幣等)の上に成り立っているものとする洞察。
なお、冒頭の記述は、他産業に比べて農業が詐欺だったということではなく、現代まで続いている近代資本主義に基づく「成長」そのものが大がかりな詐欺になりかねないとしています。
そして人類史を現代までたどってきた著者は、ついに生命を変えるまでの技術を獲得したホモ・サピエンスを「自ら神にのし上がった」とし、その行く末は続編の『ホモ・デウス』で詳細に考察されています。
いずれにしても私たちの未来は、手放しで喜べるような楽観的なものではないようです。
出所:
F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
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https://www.mag2.com/m/0001579997.html
No.200、2020年9月2日(水)[和暦 文月十五日]
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/