【ブログ】埼玉キーマン展、北條民雄と多磨全生園、そして突然の訃報

2020年12月18日(金)の終業後はJR東京駅へ。
 グランスタ東京内のスクエア ゼロ(東京駅地下もきれいになっていて驚き!)で12月15日(火)~20日(日)の間、埼玉県全63市町村キーマン展が開催されていました。

 埼玉県内で地域活性化等に活躍されている“キーマン”(本当はキーパーソン?)63人のそれぞれの活動を展示やトークショーにより紹介するというもの。ちなみに来年は埼玉県誕生150周年だそうです。

この日18時から開催されたキーマントークのテーマは「埼玉の農業とSDGs」。

 コーディネータは加賀崎勝弘さん(PUBLIC DINER、熊谷市)。パネリストは新井利昌さん(埼玉福興、熊谷市)、高橋優子さん(生活工房「つばさ・游」、小川町)、武田浩太郎さん(農家・OIMOcafe、三芳町)の3人。
 カメラマンの江澤勇介さん(北本市)も登壇されました。

冒頭に3人の方が活動される様子の動画が再生されたのち、自己紹介からトークに入りました(以下はごく一部で、文責は中田にあります)。
 新井さん
「1993年に知的障がい者の生活寮からスタートし、働きにくい方が働くことができ、社会的に自立できる場としての『ソーシャル・ファーム』づくりに取り組んでいる。人と人との関係が重要」

 高橋さん
 「小川町は金子美登さんというリーダーがおられる有機農業のメッカ。有機農業は人と人とをつなぐもので『TEIKEI(提携)』は国際用語にもなっている。自分は生産者ではなく消費者。自分の食べものを作ってくれる人を見つけることが大切」

 武田さん
 「荒地だったところに入植した農家の10代目。落ち葉などを地域資源を活用したサツマイモ生産だけではなく、メニューにこだわったカフェを運営。地元に愛着を持ってくれる人が増えることで、その地域に人が根付き、活動も広がっていく」

高橋さん
 「有機農産物を誰でも買えるものにしていきたい。CSAの取組みも進みつつある。美味しいお米を生産するためには良い環境が必要であり、里山の保全活動も行っている」

 武田さん
 「最近は農業をやりたいという若い人が増え、食べ物への関心も高まっている。空気が変わってきたと感じる。私はカフェも行っているが、やはり農家が一番得意なのは生産すること。農家以外の地域の方たちが主宰するマルシェは地域とのつながりを創っていくうえで貴重」 

 新井さん
 「農業を『業』としても成り立つように進めているが、むしろ規模は縮小して無駄を出さない方向で考えている」

 それぞれの分野で活動されている方達ですが、いずれの方も人と人とのつながりの大切さを強調されたことが印象に残りました。

 終了後は、高橋さんを囲んで6名ほどで会場近くで夕食。
 全国各地の厳選食材にこだわる中華料理屋さんとのことで、私は岩手・遠野市産の長芋や群馬県産ポークを使った担々麺を頂きました(美味)。高橋さん、ご馳走様になってすみません(また、そのうちに)。

翌12月19日(土)も、少し雲は多いものの好天。
 東京・新宿区上落合の上空にも、冷たく澄んだ青空が広がっていました。

 帰宅後、15時からユーチューブで「ふるさとと文学2020・北條民雄と多磨全生園」を視聴。
 東村山市と(一社)日本ペンクラブの共催によるイベントで、盛りだくさんな内容です。

第1部は、中井貴惠さん(女優・エッセイスト)による北條民雄『いのちの初夜』の朗読。
 1914年生まれの著者は、20歳の時に療養所(現在の国立療養所 多磨全生園)に入所後、いのちを刻み付けるように書いた小説です(腸結核のため23歳で没)。
 今年11月に復刊されるなど、コロナ禍の下で改めて注目されているようです。

 第2部は、竹下景子さん(俳優・東村山しあわせ大使)とドリアン助川さん(作家)による対談「わたしの東村山、そして多磨全生園」。
 幼い頃(道路の多くは舗装されていなかったとのこと。)を東村山市で過ごしたという竹下さんは、ドリアン助川さん作『あん』のラジオドラマの主演が決まった時、改めて多磨全生園を訪問された時の印象(豊かな雑木林の様子)などを話しておられました。

第3部は音楽ライブ「北條民雄と川端康成の書簡」。
 三咲順子さん(女優・音楽家)のピアノ演奏に乗せて、川端康成役の神田松鯉氏さん(講談師・人間国宝)と北條民雄役のドリアン助川さんによる往復書簡の朗読です。送った小説を川端が高く評価している内容の返信を読んだ時の、療養所内で絶望の淵にあった北條の心からの喜びが伝わってきます。

 最後の第4部は、文学シンポジウム「北條民雄のいのちの意味」。
 登壇されたのは吉岡忍さん(日本ペンクラブ会長)、木村哲也さん(国立ハンセン病資料館学芸員)、中島京子さん(作家)、渡部 尚さん(東村山市長)、藤崎陸安さん(全国ハンセン病療養所入所者協議会事務局長)、それに藤崎美智子さん(多磨全生園レストランなごみ店主)という多彩な方たち。
 コーディネータはドリアン助川さんです。  

 冒頭、渡辺市長からの「東村山市の歴史は全生園とともにあるコロナ禍のなか、この小説を再読して改めて命の意味を考えた」との言葉に続き、それぞれのパネリストから発言。
 「今は市民の花見の名所ともなっている全生園内の桜並木は、入所者の方たちが施設の外のことを思いつつ手植えしたもの。剪定されていないためワイルドな姿」との紹介も。

 多磨全生園に隣接する国立ハンセン病資料館の紹介もありました。現在は予約制・定員制となっているそうです。
 藤崎美智子さん(みっちゃん)は、自作の北條民雄への手紙を朗読されました。

吉岡会長からは
 「『いのちの初夜』が書かれた1936年は二・二六事件が起こるなど、騒然とした近代史の分かれ道となった年。同じ時期に川端康成は『雪国』を執筆しているが、いずれも時局の陰はない」との指摘。
 「文学は一人の力からはじまる。文学の力を信じたい」とも発言され、最後は出演者全員で万歳して終了。

 盛りだくさんで心に残るイベントでした。改めて『こころの初夜』を読み直し、全生園にも足を運んでみたいと思いました(自宅から自転車で10分弱のところにあります)。

以下、謹んで記させて頂きます。
 数日前、突然に大江正章さんの訃報に接しました。63歳という若さ。肺がんだったとは全く存じ上げませんでした。
 自ら『地域の力』(2008)、『地域に希望あり』(2015、いずれも岩波新書。名著です)等を執筆されたほか、出版社コモンズの代表として、多くの良心的な著作を世に出されてきた方です。
 私は様々なイベントやセミナーでご一緒させて頂いたほか、福島へのスタディツアーに同行させて頂いた際には様々な話を(夜はアルコールも交えて)親しく伺うなど、本当に多くの学びを頂きました。

 19日に東京・新宿区で開かれた「お別れ会」の枕元には、毎年のように参加されていた福島・二本松マラソンの時の写真が飾られていました。
 鋭い批判の視点を持ちつつ、軽快なフットワークで全国各地の現地をくまなく、全力で走り続けてこられた大江さん。人と人とをつなぐキーマンそのものでもありました。

 心から感謝しつつ、ご冥福をお祈り申し上げます。