−斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書、2020/9)−
https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1035-a/
改めて小稿で紹介する必要もないベストセラー。
著者は1987年生まれの大阪市立大学大学院経済学研究科准教授で、ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程を修了された「マルキスト」です。
今さらマルクス主義? という驚きがベストセラーとなった一因でしょうが、内容も多くの刺激的な(過激な)言説で満ちています。
例えば「SDGsは『大衆のアヘン』である」。エコバッグやマイボトル持参等の「善意」は、「良心の呵責から逃れ、現実の危機から目を背けることを許す『免罪符』」として無意味どころか有害でさえあると断じています。
「人新世」(ひとしんせい)とは、人類の経済活動が地球的な気候危機をもたらし、超富裕層は放埓な生活を続けられても多くの庶民は生き延びるために必死となる時代のこと。その気候危機を回避し「ラディカルな潤沢さ」を実現するためには、資本主義システム自体を変革するしかないと、読者を挑発しています。
これまでの脱成長論には批判的な著者が注目するのは、最晩年のマルクスが到達したという「脱成長コミュニズム」という思想。よく知られる『資本論』等の生産力至上主義とは異なり、持続可能性と定常型経済の原理を取り入れたものだそうです。
非常に鋭利な現状(資本主義)批判と理論の紹介が行われています、将来の具体的処方箋となると、その斬れ味は鈍っていると感じざるを得ません。
〈コモン〉の再建、市民による生産手段や資源の共同管理、ワーカーズコープ、あるいはデトロイトの都市農業やバルセロナの地域政党といった具体的な事例も、必ずしも目新しいものではありません。
これは本書の欠点ということではなく、未来の処方箋を描くことはそれだけ困難であることを示すものです。海外等の学説や優良事例を安直に借りてくるのではなく、自ら頭で考え、実践することで、勝ち取っていくことが不可欠です。
その思考のための多くの素材を提供してくれるという意味で、本書は多くの示唆に富んでいます。
出所:
F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
No.207、2020年12月15日(火)[和暦 霜月朔日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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