【ブログ】新しい年。そして10年後の被災地。

2021年1月12日(金)。和暦(太陽太陰暦)でも年が改まりました。
 新型コロナウイルスの新規感染者数は減少傾向ながら、10都府県には引き続き緊急事態宣言が継続中。新しい年はどのような年になるのでしょうか。
 梅や河津桜が咲き誇る季節が巡ってきました。

2月8日(火)は奥沢ブッククラブ(第64回)にオンライン参加。参加者は8名です。

 前半は参加者からのおススメ本の紹介。
 川島博之『習近平のデジタル文化大革命』、岡 檀『生き心地の良い町』、郝 景芳『1984年に生まれて』、青谷真未『読書嫌いのための図書室案内』、青山美智子『お探し物は図書室まで』、クロード・モルガン『人間のしるし』、デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ』、『毎日立ちたい わたしの台所』(MOOK本)、ベティ・フリーダン『老いの泉』、斉藤道雄『治りませんように-べてるの家のいま』、川越宗一『熱源』など。

 私からは、当日朝のライブ配信(下記)で久々にお顔を拝見した井本喜久さんの『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』と、飯舘村を訪ねた時にもお目に掛かった田尾陽一さんの『飯舘村からの挑戦』を紹介させて頂きました。

 この日も幅広い分野の本が紹介されました。この日の課題本を意識した本も。参加者が実際に読んで心に残っている本ばかりで、早速、図書館に何冊かを予約。

後半は、課題本・ジョージ・オーウェル『1984年』についての意見交換。
 表現や思考にとっての言語の重要性、主人公が違和感を大切にしている様子、拷問される場面の残酷さ(最後にネズミが出てきて私は笑っちゃいましたが)が印象に残った等の感想や意見が交わされました。
 デジタル時代が進むなかで言論統制等が現実味を帯びてきていること、ネットやマスコミ報道の真実性を見極めることの重要さ等についても話題に。

最後、恒例であるUさんによる絵本の朗読は、私も大好きな寮 美千子さんの『おおかみのこがはしってきて』
 世の中でいちばん偉いのは「大地」という父子の対話。元はアイヌ民話だそうです。

 次回(3月8日(月))の課題本はミヒャエル・エンデ『モモ』に決定。どなたでも参加できる公開イベントです。

ところでポケットマルシェ代表の高橋博之さんは、震災後10年を迎え、一次産業や地域のこれからを語り合う対談を、ほぼ毎朝ライブで配信中。
 全ては視聴できていませんが、西辻一真さん(マイファーム)、根岸えまさん(宮城・気仙沼市、銭湯と食堂)、井本喜久さん(インターネット農学校 The CAMPus)、千葉豪さん(岩手・大船渡市、漁師)、小幡広宣さん(福島・相馬市、土建業)たち。
 深刻な被災を経験された方もおられますが、皆さん笑顔が印象的です。

2021年2月13日(土)の午後は、NPO法人CSまちデザイン主催のオンライン市民講座「福島の『今』を知ろう~飯舘村を中心に~」
 講師の石井秀樹先生(福島大・農学類食農学類)は、福島でのスタディツアーの際を含め、何度もお話を伺っている方です。

 参加者は24名ほど。近藤恵津子代表の開会あいさつ。もともと昨年に予定していたものが、1年遅れでオンライン形式での開催となったそうです。
 まずはコーディネータの行友 弥さん(農政ジャーナリストの会、新聞記者時代の初任地は福島だったとのこと)から、福島を中心とした被災地の現状についてのブリーフィング。
 統計数値も使い分かりやすく解説して下さいました。

 石井先生が共有して下さった最初のスライドは、埼玉の福祉農園の様子でした(以下の文責は中田にあります)。
 「埼玉・大宮の出身で、10年ほど地元での福祉農園の取組みに参加してきた。この時の経験が、被災地の復興を考える上でも活かされている」

「福島の被災地は、放射線量は低下しているものの除染(表土の除去等)により土壌が劣化し、良いものでも売れない市場構造が継続。避難等により農業の担い手が不足し地域の伝統文化の継承等も困難になっている。
 今も約5,500人が仮設住宅で暮らしており、震災関連死者数も福島県だけは現在も増加している」

 「福島大学は、自然科学から社会科学まで(入り口から出口まで)広い分野で研究・支援活動を実施。
 飯舘村の営農再開は、農地を守る→生きがい農業→なりわい農業→新たな農業という4段階で進められている。避難先での営農再開等にも村独自で支援してきたが『生きがい農業』への予算は減ってきている」

 「地域の現状に応じた品目の導入(適地適作)が重要。エゴマなど雑穀は農地保全のほか、栽培・加工等の共同作業はコミュニティ醸成や健康維持にも有効。用途も広く米に比べて単価も高い」

 「再生加速化交付金等で多くのカントリーエレベータなど拠点施設が整備されているが、国や県の施策は産業復興支援に偏っていないか。産業復興だけでは限界がある。生産性を求める限り条件不利地は避けられ、雇用は生まれても地域社会や環境まで守られるとは限らない。
 農における価値や目的を考えた場合、生産性だけではなく『福祉性』(仮)といった観点も必要では」

「菜種の栽培・加工に取り組んでいる南相馬市との間で、機械や作業員を相互応援することにより、面積拡大と標高差を活かした適期栽培を進めることを構想している」

 「福島だからこそ、求められる農業、創造できる農業がある。
 生態系の機能を活用した土壌の再生と持続可能な農業(アグロエコロジー)の模索、真にスマートな(先端技術によらない風土と環境を活かした)農業の創造など。
 福島の問題解決は、日本の農業の未来の試金石になる」

引き続き、参加者との間で意見交換。
 「福祉性」とはセンのケイパビリティの概念に近いものでは、とのコメントには
「その通り。近著で紹介するが、公衆衛生分野のSOC(首尾一貫感覚)という概念は、ストレスのない生活は精神健康に好影響を及ぼすというもの。モチベーションを下げることのないように取り組んでいくことが必要」との回答。

 福島の米は低価格の業務用に注力しては、との質問には
 「現在は過渡期。東電の賠償スキーム(価格差補てん)の影響もあり市場が固定化してしまった。福島の美味しい米を消費者に届けたいという生産者の思いもある」

 中山間地の集落営農リーダーの方の「農地集積するほど人が減ってしまう」という言葉を紹介して下さった方には
 「大規模な基盤整備を前提とするのではなく、棚田で複数の小型農機をITで管理するといった技術(日本型のスマート農業)も開発されて良いのではないか。できるだけ環境や景観にも配慮すべき」等のコメント。

 昨秋には村長の交代もあった飯舘村ですが、報道等だけでは実態は分かりません。飯舘村を含め、何度も被災地に足を運ばれている石井先生ならではの貴重なお話を伺うことができました。
 早く福島を訪ねられる日が来るようにと、待ち遠しい思いもつのった講座でした。

ところでこの日の夜、赤松利市『アウターライズ』(震災から10年後に再び大津波に襲われた東北が独立するという小説)を読んでいると、23時過ぎに突然の揺れ。長くて強い。慌ててテレビをつけると、福島、宮城では震度6強を記録したとの速報。
 幸い10年前に比べれば被害は小さなものでしたが、「大震災を忘れず備えよ」という警告と受け取った方も多かったのではないのでしょうか。