【ほんのさわり No.212】赤松利一『藻屑蟹』

−赤松利一『藻屑蟹』(徳間文庫、2019.3)−
 https://www.tokuma.jp/book/b493527.html

著者は1956年香川県生まれ。会社も家庭も破綻して東日本大震災後の東北で土木作業員、除染作業員を経験。その後上京し「住所不定」の生活を送りつつ、漫画喫茶で書き上げた本書で第1回大藪春彦新人賞を受賞(2018)したという方(!)。 

 福島・浜通りにある某市でうだつの上がらないパチンコ店の店長をしていた主人公は、毎夜、札束の夢を見てうなされるほどのカネの亡者。高校時代の同級生に誘われて除染作業の監督者になり、そこで知り合ったベテラン原発作業員の遺書をネタに電力会社を脅そうとたくらみます。
 何でもカネで解決しようとする電力会社、日当は「中抜き」され人権さえ無視される原発作業員、補償金や義援金が生む断絶、原発事故からの避難者と地元住民との軋轢なども描かれます。著者が「自分で見てきたこと」を基にしているそうです。
 それでも最後、主人公は月500万もの収入を捨て、津波で家族を亡くしメンタルを病んだ女性のアパートに駆け付けるのです。

 物議をかもす、あるいは現地の当事者の方々が不快に思う記述もあるかも知れませんが、報道等では知ることのできなかった被災地の状況を肌で感じられたように思われました。主人公の最後の決断の爽快感が心に残りました。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 No.212、2021年2月26日(金)[和暦 睦月十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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