【ブログ】ガザ停戦の陰で

自宅の狭い庭でもドクダミが満開です。
 2021年5月28日(金)付けの日本経済新聞には「ガザ、双方『勝利』主張。復興へのがれき撤去急ぐ」との記事。
 イスラエルとガザ地区を実効支配するハマスとの停戦が発効してから1週間。戦地には食料や衣料品が届けられ、国際社会から資金拠出も表明される等の内容。

 少しほっとしたような気持ちを抱えて、翌29日(土)には、先月に続いて東京・十条のパレスチナ料理店・ビサンへ。
 フォトジャーナリスト・高橋美香さんのトークと食事会が、8名ほどの少人数で開催されました。美香さん発案による「ビサンで食べて応援」する会です。

ドキュメンタリ映像を上映しながら、美香さんが説明(文責は中田にあります。聞き間違いや誤解があるかもしれません)。
 映像では、イスラエルが建設する入植地の壁ぎわでデモを行うパレスチナ人(画面のこちらの方)に向けて、白い煙を吐きながら飛んでくる無数の催涙弾。実弾による犠牲者も出ます。
 深夜に、デモ参加者を逮捕するためにイスラエル軍が子どもも寝ている住宅に押しかけ、住民との間で押し問答する様子も。

 美香さんからは
 「今回のような大規模空爆等があればニュースになって注目されるが、日常的に多くのパレスチナ人の命が失われている。最近も16歳の子どもや学校の先生が亡くなっている。これら事実は知ろうとすれば知ることはできるが、ほとんど国際的に報道されることない」

 「ガザでの死者は253人で、うち子どもが66人。ハマスのロケット弾によるイスラエル人犠牲者12名のうち5名はパレスチナ人と思われる。タイからの出稼ぎ者も2名。裕福なイスラエル市民の居住区には防空システムが完備している」

 「パレスチナもイスラエルも、貧富の格差は激しい。イスラエルでも豊かでない青年たちがボーダーポリス(武装した「国境警備隊」)を職業として選び、エルサレムやヨルダン川西岸地区で人々の弾圧に加わっている」

 「アメリカは、イスラエルに多額の武器を供与しながら、今回はガザへの550万ドルの緊急支援を表明。壊してから、今度は復興のための資金を援助しているという国際政治・経済が、構造的に人命を失わせ、抑圧や人権侵害が行わせている。それを思うとやりきれない気持ちになる」

 「アメリカのイスラエル・ロビーの強大さはかねて指摘されているが、国連人権理事会は人権侵害について現地調査する独立委員会を設けることを決めた。アメリカ国内のユダヤ人の若者の間ではイスラエルの武力行使を批判する動きも出てきている。
 ゆっくりと社会は変わりつつあるのかも知れない。しかし、その間にも多くの人命が失われ続けている」

美香さんの表情は徐々に沈痛なものに。
 停戦合意との報道にほっとしていた気持ちも、吹き飛んでしまいました。

「お料理の準備ができましたよ」。
 パレスチナ人オーナーシェフ・スドゥキさんの明るい声が、沈んだ場を救って下さいました。お楽しみの食事の時間です。

優しい味のレンズ豆のスープ。ホンムス(ひよこ豆のペースト)など4種類のペーストは、ピタパンに付けて頂きます。
 見た目にボリューミーな鶏肉の煮込み料理は、くどくも辛くもありません。
 今回もアルコールの代わりに、ザクロジュースを頂きました。なかなか美味です。

そしてメインは、マクルーペというパレスチナの家庭料理。この日のために特別に用意して下さったそうです。
 「ひっくり返す」という意味の通り、お皿で蓋をした大きなお鍋を、いったん頭の上に掲げるようにしてからひっくり返すと、たっぷりの鶏肉やナス、ニンジン、カリフラワー等が入った炊き込みご飯が現れました。
 期せずして参加者からは拍手。

 大皿のままテーブルの中央に据えて突つき合うのが本来の食べ方だそうですが、コロナ禍もあり、偶然、端っこに座った美香さんが全員に取り分けて下さいます。

 オリーブオイルで和えたサラダと、ヨーグルトをかけて頂きました。初めてでしたが、日本人の口にも合う優しい味です(特に日本人向けにアレンジされている訳ではないそうです)。

 スドゥキさんは作り方をお母さんに教えてもらったとのこと。何度もパレスチナ家庭に住み込んだ経験のある高橋さんは「懐かしい」と感激されていました。
 みんなで食べる食事は、人々の気持ちを癒してくれます。
 楽しい時間はあっという間に過ぎ、気が付くと緊急事態宣言下の営業終了時間の20時近く。

とても食べ切れなかったマクルーベなどお料理は、各自、頂いたタッパーに入れて持ち帰ることに。
 高橋さんの絵葉書もお土産に頂き、さらにパレスチナの生産者を支援している(合)パレスチナ・オリーブのエクストラヴァージンオイルとザアタル(香辛料)を求めさせて頂きました。
 国や都の要請を守って20時過ぎにはお開きに。
 美味しいお料理とスドゥキさんの笑顔で、幸せな気持ちで満たされました。ご馳走様でした!

そして翌日の朝。
 満たされた気持ちと同時に前半の美香さんのお話が蘇ってきて、美香さんにツイッターで質問してみました。
「パレスチナでの抑圧や人権侵害を止めるために、フツーの私にできることはあるのでしょうか」

 すぐに、次のような丁寧な返信が返ってきました。
 「パレスチナ・オリーブの商品を使うなど小さな活動の積み重ねも大切。さらには実態を知り、周知に努め、おかしいことにはみんなが気づき、声をあげるような空気感をつくっていくこと。本当に必要なのは、無知と無関心を超えた世論づくり。まずは身の周りのことから、忘れずに語り続けることが重要」

美香さんは、コロナ禍で現地を訪問することもままならず、国内でのトークショー等の機会も減っているとのこと。
 一人でも多くの方に美香さんの話を聞いて頂きたいと思うのですが。