【ほんのさわり No.218】原田マハ『生きるぼくら』

−原田マハ『生きるぼくら』(2015.9、徳間文庫)−
 https://www.tokuma.jp/book/b496237.html

高校時代にいじめにあって引きこもりとなった主人公は、24歳になった今も、昼夜パートで働く母親(父親とは離婚)に寄食中。毎日の食事はカップ麺とコンビニおにぎりばかり。食事とは、死ななければいいだけの「日常業務」にしか過ぎませんでした。
 ある日、突然、母が蒸発して途方に暮れた彼は、母が遺した年賀状を頼りに、長野・蓼科の祖母を十数年ぶりに訪ねます。
 ところが祖母は認知症を患い、彼の顔も名前も分かりません。それでも食べさせてくれたおにぎりやみそ汁の美味しさが、閉ざされていた彼の心を徐々に開いていきます。

 彼は地域の人たちに助けてもらいながら、昨年まで祖母が作っていた田んぼで人生初めての米作りを始めます。戸惑う彼は祖母から「お米の力を信じて、とことんつき合ってあげなさい」と声を掛けられ、やがて「ぼくたち人間も自然の一部」であることに気づき、そして収穫した米で作ったおにぎりの「自然と人との、いのちの味」を噛み締めるのです。
 米作り体験は、彼の「人生」そのものを変えたのです。
 おにぎりや梅干しを、無性に食べたくなる小説です。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 No.218、2021年5月26日(水)[和暦 卯月十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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