−香坂 玲、石井圭一 『有機農業で変わる食と暮らしーヨーロッパの現場から』 (2021.4、岩波ブックレット)
https://www.iwanami.co.jp/book/b570571.html
日本の有機農業の面積割合は0.5%程度。
先般、これを2050年までに25%に引き上げるとの目標が掲げられましたが(農林水産省「みどりの食料システム戦略」、2021年3月)、その達成可能性や実現へのプロセスについては懐疑的な見方も少なくありません。
本書は、2人の専門家(名古屋大学大学院教授、東北大学大学院准教授)が、有機農業先進地とされる欧州の実態を調査し、近年、有機農業が急速に広がった要因を明らかにしようとしたものです。
例えば、有機農業面積割合が20%を超えているオーストリアにおいて有機農産物の流通を支えているのは、 特別な高級スーパー等ではなく、多くの消費者にとって身近なスーパーなど量販店 (普段使いの店) であること。
ドイツでは、行政が指名したコーディネータが川上 (生産者) と川下 (事業者、消費者) との連携を仲立ちし、公立学校での有機の給食等を実現していること。
また、フランスでは、生産者がグループを作り、AMAP (フランス版 CSA: 地域支援型農業)、マルシェ出品、移動出張販売等の多様な取組により販路を拡大していること、等がレポートされています。
ところで、今でこそ有機農業先進地とされる欧州ですが、1970年代には有機農業は「胡散臭いもの」「異端」と捉えられており、90年代になっても多くの国での取組み面積割合は(現在の日本と同じように)1%に満たない状況だったそうです。
それが近年、環境問題等への意識が高まるなか、生産者、流通、行政等が試行錯誤を重ねることで、「地殻変動」的に有機の取組が拡大してきているとのこと。
欧州の事例から学ぶことは多そうです。また、日本の消費者の「有機農産物とは特別なもの (高品質だが高価)」 という意識が変化することも必要と思われます。
出所:
F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
No.220、2021年6月24日(木)[和暦 皐月十五日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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