【ほんのさわり No.223】小田 実『HIROSHIMA』

−小田 実『HIROSHIMA』 (1997.7、講談社文芸文庫) −
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平和の祭典・五輪開催期間中である2021年8月6日、広島では76回目の「原爆の日」を迎えました(長崎は9日)。
 「日本は唯一の被爆国」というフレーズを私があまり好きではないのは、「日本人が唯一の被爆者」であるかのような誤解を呼ぶ恐れがあると思うからです。

そのことを教えてくれたのが、小田実の長編小説『HIROSHIMA』です。
 小田実 (おだ・まこと) は1932年大阪生まれの作家、運動家。10代で大阪空襲を、60代で阪神・淡路大震災を体験しました。

この小説の登場人物は、国籍も人種も、それまでの人生のありようも全く異なっています。
 撃墜され捕虜となったアメリカ原住民出身の爆撃機搭乗員、朝鮮半島出身者、南方からの留学生、恋人の子を身ごもっている日本人など。
 彼女・彼たちに唯一共通するのは、1945年8月6日朝に広島にいて被爆したとことです。亡者のような姿となったアメリカ人捕虜は、同じく亡者となった日本人達により虐殺されるという凄惨な場面も描かれています。
 国家が起こした戦争に巻き込まれた市民達は、加害者も被害者も、差別者も被差別者もなく、等しく「難死」を強いられたのです。

この小説には、絶対平和主義(「殺すな」)と市民主義(「われ=われ」)という小田の思想が濃厚に表れています。
 なお、近年、スペイン・バルセロナ市や韓国ソウル市における市民自治が注目されていますが、2007年に逝去した小田の思想は、その先鞭をつけたものと評価されると思われます。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 No.223、2021年8月8日(日)[和暦 文月朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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