【ほんのさわり No.224】宇沢弘文『人間の経済』

−宇沢弘文『人間の経済』(2017.4、新潮新書) −
 https://www.shinchosha.co.jp/book/610713/

著者は1928年鳥取生、2014没。
 本書は、著者晩年のインタビューや講演録をもとに編集部が取りまとめ刊行したもので、宇沢本人による詳細な校正作業は行われていないとのこと。「語り」だけに、宇沢の思いがより率直に表現されているように思われます。

例えば「人間は心があって初めて存在する。心があるからこそ社会が動いていく」「大切なものは決してお金に換えてはならない」「市場原理主義は、もともと学問的にも経済学的にもまったく無内容で支離滅裂。人間の心やそれぞれの境涯への配慮もない」。

「地球環境はすべての生物にとって共通の大切な財産」「排出権取引ほど反社会的で非倫理的なものはない」等々。

特に「農の営み」について、宇沢がこれほど高く評価していたことには驚きさえ覚えました。
 すなわち、「農の営みは食料生産だけではなく文化の基礎を作り出してきており、その意味で農村自体が一つの重要な社会的共通資本である」とし、「農村に定住して農の営みに従事することが生き方としてもっとも望ましい」としています。

一方で「市場的な効率性(工業の原理)を重視する政策の結果、現在の日本農業は最大の危機にある」として、「農村を犠牲にしてきたことが国としてのバランスを大きく欠く状況をもたらしている」とも語っています。

さらには「地球温暖化問題を考える上でも中心となるのは農業。太陽エネルギーや大気中の二酸化炭素を利用して生産する農業は、自然と共生する産業であるところが工業とは決定的に違う」と評価しているのです。

昨今、地球環境への加害者とみなされることも多い農業ですが、経済学の大家は、農業・農村の本質(あるべき姿)を見抜いていたのです。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 No.224、2021年8月22日(日)[和暦 文月十五日]]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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