【ブログ】第1回 全国農泊ネットワーク大会(宮城・大崎)

2021年のカレンダーは早くも9月に。一転して肌寒い日が続きます。
 自宅近くに一画を借りている市民農園では冬野菜の準備を始めました。
 たくさんの収穫をもたらしてくれたトマト、キュウリ、ナスを片付け。ナスとピーマンはまだ実を付けてくれています。
 そのようななか、一昨年の洪水で大きな被害を受けられた長野市のかとうりんご農園さんから、ポケマル経由で嬉しいお届け物。今回は梨です。小ぶりですがジューシーで美味しく頂きました。ご馳走様でした。

さて、9月5日(日)は第1回全国農泊ネットワーク宮城大崎大会の開催日です。
 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、予定されていた県内在住の方向けのパブリックビューイングも中止され、全面的にオンライン開催となったとのこと。実行委員会や事務局の方々のご苦心が偲ばれます。

 午前9時30分に開会。
 実行委員会委員長(宮城大・郷古雅治教授)と大会顧問の伊藤康志 大崎市長からの挨拶、 村井嘉浩 宮城県知事等からの祝辞(ビデオメッセージ)に続き、大会アドバイザーの青木辰司氏先生(東洋大学名誉教授、(一社)日本ファームステイ協会品質評価支援研究所 所長)によるオープニングトーク。(以下、文責は中田にあります。)

 「グリーン・ツーリズム政策が日本に導入されてから約30年。これまで多くの成果を上げてきた一方で、第一世代の高齢化と世代継承等の課題もある。農泊の取組みを進めることで人が変わる、地域が変わる。全国各地での実践成果を学び、議論したい」

注:プログラム、当日の資料等は大会(大崎市)HPからダウンロードできます(以下、同様)。

続いて、ショートフィルム「未来の時間を生きる僕たちへ-自然と人と心を繋ぐツーリズム-」の上映。
 地元出身の役者、劇作家、演出家である高泉淳子氏による映像には、渡り鳥の大群や居久根(いぐね、屋敷林)など豊かな自然・環境と、そのなかで暮らす人たちの姿が、美しく、活き活きと描かれていました。
 一方で、仙台や東京など都市住民へのインタビューでは農泊の認知度の低さも明らかに。

休憩後は「農泊の持続可能な展開を目指して-農の秘められた価値を世界へ、 次世代へ」と題する総合討論。
 青木先生をコーディネーターに、パネリストは荻野憲一氏 (農水省)、上山康博氏((一社)日本ファームステイ協会)、本田 節氏((一社) ムラたび九州)、伊藤秀雄氏(みやぎグリーン・ツーリズム推進協議会)の4名。

政策の動向や地域の取組等について紹介・報告がありましたが、特に本田さんのお話が印象に残りました。本田さんには、2003~05年の九州農政局在勤時に色々とお世話になりました。

本田さん
 「昨年7月の豪雨災害に際しては全国から暖かい支援を頂き感謝。2003年の第1回全国グリーンツーリズムネットワーク熊本水俣大会以降、人吉、九州でグリーン・ツーリズムに取り組んできた。
 課題は実践者の高齢化。また、地域をつなぐコーディネータ人材の育成、中間支援組織など専従事務局の整備、実践者の学び・交流の場の拡充が必要。
 その地域ならではの食文化がキラーコンテンツになる。ただ、従来のあるがままの食ではなく、ビーガンなど多様性にも対応できるブランディングなど、外部の専門家を地域に派遣するような制度を設けてほしい。
 今日の大会が新しい幕開けになることを期待」

13時からは6つの分科会に分かれての討論です。
 興味深いテーマが並ぶ中、私は第3分科会(「SDGsを農山漁村に学ぶ~世界農業遺産の保全活用とツーリズム~」)に参加。80名近くが参加されています。

冒頭、コーディネーターの大和田順子先生(同志社大学)からは、
 「SDGsはウェディングケーキの図が重要。ベースにあるのは農村にある自然資本で、その上に社会、さらに経済が乗っている。
 日本における世界農業遺産(GIAHS)認定地域(11地域)の取組みをSDGsの17目標と照合してみると、ジェンダー平等(目標5)など取組みが不十分なものも」

 「SDGsを農山漁村(地域)に活かしていくためには、現在の取組みをSDGsの目標と照合しつつ新たな視点を加え、経済・社会・環境の3つの側面から整理。
 さらに世界の課題解決に貢献できないか、SDGs目標に不足している地域ならではの固有の価値はないか等について、ステップを踏まえて検討していくことが重要ではないか」等の説明。

(大和田先生の説明資料より)

続いて各地域からの実践報告です。
 新潟・佐渡市の祝 雅之さん((一社)佐渡観光交流機構)は、大手電機メーカー(営業)を退職しUターンされた方。生態系の最上位にあるトキを復活させめるための「生きものを育む農法」等の取組みについて説明して下さいました。

大分・国東半島の林 浩昭さん(国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会)は、東京大学助教授(植物栄養・土壌肥料学)を退職して実家の農林業を継がれた方。 
 クヌギ林が水循環等の基点となっていること、原木シイタケの生産活動が実質的に温室効果ガス削減に貢献している状況等について具体的な数値とともに説明して下さいました。輸入品に比べて高価なシイタケだが、倫理的消費につなげていけないか、とも。

(祝さん、林さんの説明資料より)

岐阜・長良川の蒲 勇介さん(NPO法人ORGAN)は元グラフィックデザイナー。
 現在は長良川の上流地域に当たる郡上市のご出身。行政等と連携しながら、川漁や伝統工芸品など流域資源・文化の発掘・活用に取り組んでおられるとのこと。水うちわや岐阜和傘などの復活や商品開発に取り組んでいる様子も紹介して下さいました。

宮城・大崎地域の高橋直樹さん(大崎地域世界農業遺産推進協議会)からは、大崎耕土という言葉は18世紀の史書にすでに見られること、伝統ある暮らしや食・農耕文化、民俗芸能、景観などを次世代に継承していく取組み内容等について説明して下さいました。

(蒲さん、高橋さんの説明資料より)

14時35分頃からは、各ルームでの討論の報告と分科会としての総合討論。
 SDGsについてはまだ掘り起こしが足りない、SDGsという言葉は使っていないが目標は共通しているのではないか、地域を応援する事態がSDGsの目標実現につながるのでは、等の報告。
 SDGsはマークも借り物のような感じがあり、自分たちで独自に分かりやすい目標を作っていく必要があるのでは、等の意見も。

大和田さんから学生やシニアを対象としたGIAHS(SDGs)ツアーの可能性等について言及されたのに対して、大分の林さんからはJRの観光列車で開催しているワークショップ等について紹介がありました。
 宮城県では教育旅行向けパンフレットを作成しているとの情報も。

15時からは全体での討論を再開。各分科会のコーディネータから各分科会での議論の模様を紹介。
 グリーンツーリズムの継承と発展、農泊推進の組織・ネットワーク化、食文化活用、農村景観等の活用、農泊の普及と可能性等をテーマに、興味深い議論が交わされたようです。
 第6分科会では、イタリアのアルベルゴ・ディフーゾ(地域ぐるみの「分散したホテル」)についての議論も行われたようです。
 単なる観光ではなく「暮らしそのものの交流」が大切、地域のネットワークは災害時の支え合いにも有効であるとの話も。

若干時間は伸び、17時前からは大会宣言文(宮城アジェンダ)の採択。
 青木先生は柳田国男の「豊熟の歓喜」という言葉を紹介されました。農の営みとはアートの営みそのものでもあるとも。

 全文が読み上げられた後、本来はその場(会場)で採択される手順だそうですが、今回はオンラインであるため、HPに文案を掲載して意見募集が行われることに。

丸1日の大会は17時半頃に終了。
 登壇された皆様、実行委員会・事務局の皆様、お疲れ様でした。感謝申し上げます。

しかし交流がテーマの大会もオンライン開催とは、何とも皮肉というか、残念ではありました。
 特にこのような大会は、全国各地で実践されている方とリアルに顔を合わせて交流できることこそが目的・醍醐味なのでしょうが、本当にコロナは恨めしいですね。
 世の中が落ち着けば、ぜひ現地を訪ね。素晴らしい景観や食事を楽しみつつ、多くの方と交流できればと思っています。

なお、第3分科会のコーディネータを務められた大和田順子さんには、翌々日の第4回 食と農の市民談話会にも登壇頂き、大崎地域の取組みを中心に話題提供を頂きました。
 本当にご多忙のところ、有難うございました。