【ブログ】大和田順子さん「農山村に誘われた10年」(第4回 食と農の市民談話会)

2021年9月7日(火)19時から、今回も20人ほどに参加頂き、第4回の食と農の市民談話会がオンライン開催されました。

 冒頭、主催者であるNPO市民科学研究室(市民研)の上田昌文代表から、「好評なシリーズの4回目。産地から遠くなってしまった都会に住む人達に、農業や食べものが、身近で実践的に取り組める対象になっていくことを期待している」等の開会挨拶。

続いて進行役(黒子)の中田から、恒例のマクラとして図表を1点紹介(当日午前中に拙メルマガ読者の方に配信させて頂いたものと同じです)。

総人口が減少するなかで注目されている「関係人口」とは、観光(交流)以上移住(定住)未満の、地域と様々なかたちで関わる人々のこと。
 関係人口の来訪が多い市町村ほど、移住者も多くなっているとの国土交通省の資料を紹介しました。


そして、この日話題提供を頂く大和田順子さん(同志社大学教授)を紹介させて頂きました。
 私にとって大和田さんは、福島・浜通りや宮崎・椎葉村などを訪問するきっかけを与えて下さった方で、楽しい体験と多くの学びを頂くことができました。その経験を多くの人と共有して頂きたいと思ったのが、このシリーズに大和田さんをお招きした理由です。

大和田さんは、「農山村に誘われた10年~『世界農業遺産』認定地域の魅力~」と題するパワーポイントの資料をご自身で共有・操作しながら、お話して下さいました(以下、意見交換の部分を含めて文責は中田にあります)。

「いわゆる都市農村交流に携わって10年ほど。今後、ますます重要になると思われる。今日は、農山村に誘(いざな)われた私自身の体験を振り返りつつお話したい」

 「私は東京生まれ・育ちで今春に初めて東京を離れ京都在住。2000年代に、有機農業やローカル経済に価値を置くロハスに出会い日本に紹介。

 2010年代に入ると東日本大震災もあり、各地の農山村に通い、被災地復興支援を含めて地域の方たちとプロジェクトを立案・実践してきた。この間、農水省の世界農業遺産等専門会議委員等も歴任。第2、第3のふるさとができ、多くの大切な友人にも恵まれた。
 2020年代に入ると、豊かな里山・里海を守る・支える人材育成にも取り組んでいる」

(注:写真は当日の大和田さんの説明資料より。動画(後述)でご覧頂けます。)

「大崎市との出会いは一枚の絵はがきだった。空を覆うように飛ぶ無数の渡り鳥に心を奪われた。
 蕪栗沼・周辺水田は2005年にラムサール条約湿地に。水田が生物多様性を支える場として初めて認められた」

「人(農業者)とマガン(視線保護団体)との間で対立もあったらしいが、その間を調整した行政(旧田尻町)の役割が大きかったと聞いている。
 ふゆみずたんぼ(冬季湛水水田)に集団的に取り組んだことで、マガンの飛来数は大きく増加している」

(注:左の資料の元の出典は大崎市役所)

「生きものの生息環境の復元、生物多様性を活用した栽培方法など、農業と自然の共存・共生と、持続可能な地域づくりに取り組んでいる。
 このような様子を可視化して多くの人に知ってもらうため、映像や絵本の作成、仙台や首都圏でのマルシェやツアー等を実施」

 6分ほどの動画「映像詩『蕪栗沼ふゆみずたんぼ』」も紹介して下さいました。心に沁み込んでくるような美しい映像です。

(注:左の資料の元の出典は大崎市役所)

世界農業遺産(GIAHS)とは、2002年に国連食糧農業機関(FAO)が開始したもの。現在、世界で21か国・57地域が認定されているが、日本は11か所と中国に次いで多いのは誇るべき。また、日本独自の日本農業遺産という認定制度もある」

 FAOが作成した動画も上映して下さいました。
 「世界各地、日本各地の農業遺産地区には、それぞれ固有の技術や知恵がある。その価値を知ってもらい、保全する活動を応援して頂けると有難い」

「ラムサール条約湿地があった大崎地区は、さらに取組みを拡充して「大崎耕土の巧みな水管理による水田農業システム」として2017年に世界農業遺産に認定された。

 「ローマでの認定証授与式に出席した後、行政など関係者の方たちと一緒にアグロ・ツーリズモ(農村に宿泊し田舎を体験をする旅)を視察したのも貴重な経験に。イタリアの先進的な取組みも、ここ10~20年で創り上げられてきたことを知った。
 現在は日本でも多くの若い人が農村に入りつつあり、期待したい」

「大崎地区では『共に支え合う仕組み』によって持続可能な農業システムが継承されている。自然共生ブランドに挑戦する農家、価値を共有し共感し産直等に取り組む地域住民や消費者、6次産業化に取り組む地元酒蔵等の地元企業、NPO法人や研究機関、行政など、多様な主体が連携している。
 また、Present Tree や『鳴子の米プロジェクト』等にも取り組まれている。
 私自身が主催した首都圏のシニアを対象とするスタディツアーも好評だった」

(注:左の資料の元の出典は大崎市役所)

「大崎耕土から学んだものはたくさんある。 
 生きものの賑わいがある。環境と共生する農がある。人の生活と自然が共鳴している。山の神を敬うなどの精神性、生き方も美しく感じられる。
 これらの都市部にはない価値を感じたくて、私は農村に通っているのだと思う。私自身、そのような価値を可視化し伝えていく活動を、これからも続けていきたい」

お願いした1時間ぴったりで話をまとめて下さいました(さすが!)。
 後半は、参加者の方々との談話(質疑応答、意見交換)です。

 まず、原発事故前には都市農村交流の活動もされていたという福島県在住の男性(関係人口が最も多いのは福島県という地元紙の記事も紹介して下さいました)からは、取組みの旗振り役や財源、取組みの実績(関係人口の増加数)等について質問。

 大和田さんからは
 「大旗振り役は市で、専任の部署もあり、周辺の町と協議会も設置。
 財源に関しては、自販機で協力金を集めたり、ふるさと納税も活用。また、企業や教育向けのSDGsツーリズムプログラムも作成している」

 「コロナ禍の現在、様々な方法による価値の可視化等の環境整備に取り組んでおり、今後、訪ねる人も増えてくると思われる。
 福島・浜通りでのプロジェクト(オーガニックコットンの栽培等)にも関わっているが、ここには毎年数千人の首都圏からのボランティアが訪問。コロナ禍でもオンラインのツアーや報告会を実施している」等の回答。

「世界農業遺産とは、そこに住む人の誇りを創り上げ、継続する手段でもあることが理解できた」との感想を述べられた方も。

バードウォッチャーという男性は、「ガンがどのくらい珍しい鳥か、多くの人は知らない。飛び立つ風景は素晴らしかった。ぜひ見に行きたい」との感想を述べられつつ、農薬や化学肥料の使用状況について質問。

大和田さんからは
 「認証基準に5割減が入っており、蕪栗沼周辺では無農薬栽培にも取り組まれたいる。農水省がみどりの食料システム戦略を公表したこともあり、農業遺産地域でも有機農業が一層推進されていくのでは」との回答。

 関連して、現在、農水省の農業遺産等専門会議の委員を務めておられる小谷あゆみさん(本談話会\の初回に話題提供を頂きました。)からは、
 「農業遺産は、もともと伝統的農法を高く評価し認定する仕組み。新潟・佐渡などでは生物多様性も重要な要素になっている」等の説明を頂きました。

「付加価値をつければ高い値段でも買おうとする消費者もいるのでは」との感想には、大和田さんからは「食べものは素性が分かっていることが重要。生産者だけではなく、環境に配慮しているなど『産地の顔』が見えることにも関心が高まっている」との発言。

アグリツーリズム(グリーンツーリズム、農泊等)等がなぜ日本では普及しないのかと質問には、大和田さんからは
 「一昨日は大崎市で第1回の農泊ネットワーク全国大会が開催され、私もコーディネータを務めた。グリーンツーリズムを始めた第一世代が高齢化している一方で地域おこし協力隊等を通じて若い人たちも地域に入っており、今後、盛んになっていくのでは。都市部を含め、人に会いに行くのが目的という人が増えている」等の回答。

 関連して「国際会議で日本の街並みは美しくないと言われたことがある」「茅葺屋根の葺き替え等を地域の人たちで支え合うようなシステムは廃れてしまった。社会全体で支えていく仕組みが必要では」「景観保全のために公的な資金を投入すべきでは」等の発言が相次ぎました。 

東京・八王子で巻き寿司やさんをされている八幡名子さん(来月、話題提供を頂く予定です。)からは、マガンが増えることで農家に被害は出ていないのかとの質問。
 大和田さんからは「昔は杭掛けしていたので被害があったが、現在はほとんどコンバインで収穫されているため大きな被害はない、保証する条例があるがほとんど実績はない」等の説明。

 山梨県のある地区に通っている女性からは「そこに畑があって農作業ができることが、年間を通じて通う動機になっている」との発言。

 京都在住の男性からの冬季湛水のメリット、デメリットについての質問には、大和田さんから「雑草を抑制しイトミミズなど生物多様性の保全につながる一方、冬季にパイプをつなぐ作業が大変といった話は聞いたことがある。なお、地域にとっては水田には洪水を抑制する効果も有している」との説明。

市民研・上田代表からは
 「確かに都市部への人口流入は多いが、改めて、地方の方が農、食、環境など総合的な魅力を有していることが理解できた。私自身もこれまであまり農村を訪問してこなかった。大和田さんのように、地方の魅力を発信し、つなぎ役を担ってくれる人が、どんどん出てきてほしい」等の総括的なコメントがあり、定刻の21時を過ぎていったん閉会。

 今回も時間の許す方に残って頂き、の30分ほどの延長戦。
 「日本人と旅」も話題になりました。

 小谷さんによると「日本人は旅が下手。ヨーロッパの人はバカンス等で長期間にわたって農村に滞在する習慣があり、時間の使い方も上手」とのことで、「農村は都市生活の疲弊を癒す場でもある。訪問する人が増えれば景観もよくなるだろう。都市と農村は分断されるものではなく Win-Win の関係にある」等の発言。

 これに対して上田さんからは「移動の制約があった江戸時代でも、お伊勢参りや『可愛い子には旅をさせる』など、旅、長距離移動はそれなりに盛んだった」といった話題提供も。

 ほかにも様々な話題で盛り上がり、21時30分過ぎに終了。
 大和田さん、参加して下さった皆様、今回も有難うございました。

以上、概要を紹介してきましたが、話題提供、意見交換ともにごく一部に過ぎません。ご関心を持たれた方はぜひ当日の動画をご覧下さい。有料(500円)ですが、大和田さんの説明資料や紹介して下さった動画も含めて、どなたでも視聴頂けます。
市民研HPの下の方に、過去3回の動画とともに掲載されています。)

なお、次回(第5回)は10月5日(火)、八幡名子さん(巻き寿司やさん、東京・八王子)から「私がお寿司に巻き込んでいるもの(仮題)」について話題提供頂きます。

 このシリーズもあと2回となりました。多くの方のご参加をお待ちしています。