2021年10月5日(火)の19時から、オンラインで食と農の市民談話会の第5回が開催されました。
食べものの産地や生産者のことを「自分ゴト」にすることを狙いとした本談話会(全6回シリーズ)も、終盤になりました。
主催者であるNPO市民科学研究室の上田昌文代表の開会挨拶に続き、進行役の中田から、毎回恒例のグラフを1点説明。
家計における2020年のすし(外食及び弁当)への消費額を前3年平均と比べると、外食は14%減少しているのに対して弁当は同6%増加し、外食と弁当(持ち帰り)が逆転。
これは直接的には新型コロナウイルス感染拡大の影響によるものながら、すしという伝統的な食品の消費構造も変化しつつあることを示唆しているのかも、等と説明させて頂きました(本グラフは拙メルマガに掲載されたものです)。
そして本題の、八幡名子(やはた・めいこ)さんからの話題提供です。
八幡さんは本業(映像作家)のかたわら、本年1月から毎月1日だけのテイクアウト専門の「巻き寿司やさん」を開店。『食べる通信』や『ポケットマルシェ』を通じて知り合った生産者や、地元・八王子の農家の食材を、愛を込めて巻き込んでおられるという方。
デザイン性にも富んだ楽しいスライドを使って(一部、動画も)話題提供して下さいました(以下は一部で、文責は中田にあります。関心を持たれた方は、ぜひ、当日の動画アーカイブをご覧下さい。市民研ウェブサイトの下の方に掲載されています)。
八幡さん「プロの寿司職人でも、大学教授やジャーナリストでもない一人の主婦である私が、なぜ今のような活動を始めたかから、説明したい」
「私自身、食べものの産地や農業にはほとんど関心がなかった。きっかけとなったのは、2015年頃に友人のライブ会場に置かれていた『東北食べる通信』。
何となく持ち帰って読んで、その内容(生産者の思い)に衝撃を受けた。食べものは人が作っているという、当たり前のことを教えられた」
「それまで生産者は遠い存在で、その思いを受け止めることなど考えたこともなく、値段だけ見て、ただ食べていた自分に気づいた。ごめんなさい、知らないことは罪だ、と悟った」
「それから食べものの産地や生産者のことが気になり始めた。江戸東京野菜の勉強もするなか、地元・八王子で誰がどんなものを作っているのかを知りたくなり、調べてみると八王子にも高倉大根、八王子ショウガ、川口エンドウという伝統野菜があることを知った」
「生産現場に行って農家さんに会いたいという気持ちが募り、援農などで訪ねるようになって、農家さんのご苦労を目の当たりにした。収穫するまでが農家の仕事ではない。
消費者も、自分で食べるものは自分で洗う、丸ごと食べるなどの工夫が必要と思う。スーパーの野菜売り場は土間にすべき」
「私たち消費者は、生産者さんの思いをもっと知るべき。そして、さらに多くの人に伝えていきたいという思いが強くなった。
地元で伝統野菜に関するイベントを手伝ったりしていたが、一過性ではなく、より記憶に残る方法、食べ方はないかと考え、巻き寿司をツールにして生産者の思いを多くの人に伝えていければと思った」
「巻き寿司は、色んな食材を丸く巻くことで平和にもつながるのではと考えている。民間企業の一般公募で巻き寿司大使となり、広島や愛媛の被災地支援を含め、大学や市民講座、あるいは自宅など、各地で巻きずし教室などの活動を行っている」
「衛生管理もできる活動拠点が欲しいと思い、本年1月31日に『巻き寿司やさん』をオープンした。
販売までするつもりはなかったのだが、恵方巻シーズンの直前だったこともあり、勢いそのままに月1回のテイクアウト専門のお店として開業することに」
「多くの人からは、なぜこのコロナ禍の時に開店したのかと聞かれた。しかしコロナ等に関係なく、畑は常に動いている。農家さんからお預かりした大切な食材を、美味しい巻き寿司にして伝えていきたい思いが抑えられなかった」
「いざオープン直前になると、責任感の重圧でドキドキして巻けないような状態になった。しかし食材を見ると、生産者の顔が浮かんできて落ち着けた。顔の見える食材の有難さ。
この時、私が巻いているのではなく、生産者の方々に巻かれているんだと、思った」
「岩手・大槌町のジビエ、静岡市の石垣いちご、東京・八王子市のモッツァレラチーズなど様々な生産者の方の食材を巻き込んできた。
八王子の伝統野菜・川口エンドウだけの巻き寿司も作った。伝統野菜は生産が不安定で、日持ちもしないため、自ら収穫を手伝いに行って食材を確保した」
「巻き寿司やさんのロゴマークは、豊かな個性のある作物と、それに注がれたたくさんの愛情を表している。召し上がった皆様にたくさんの栄養と愛情が伝わりますように、と願いを込めて巻いている」
楽しく分かりやすい話題提供を受けて、後半は参加者の皆さんとの質疑応答、意見交換です。
なお、この日も定刻の21時でいったん終了し、八幡さんを含め、時間のある方には30分ほど残って頂き延長しました。
『食べる通信』の生産者とは、最初、どのようにコンタクトしたのかとの質問には、
「編集長の高橋博之さんにダイレクトにメッセージを送らせて頂いた。それほど思いが強かったのだと思う」との回答。
「内藤カボチャなど色んな野菜を紹介してもらい楽しかった。以前に新潟の方がカボチャを送ってくれたのだが、一般的な西洋カボチャと異なりみずみずしく、味も全然違った」との体験を話して下さった方。
千葉出身の方からは、地元には飾り寿司があることに加え、スペイン・バルセロナで豆腐屋さんを経営している清水建宇さん(元朝日新聞論説委員)が、巻き簾が良く売れると言っていた等のエピソードを紹介して下さいました。
巻き簾の使い方は海外でもユーチューブ等で分かるそうです。
八幡さんからは
「巻き簾は水切りなど様々な用途に使える。竹ひごを作るのにも伝統的な技術が必要。巻き寿司教室に最初に参加して下さった方には巻き簾をプレゼントしているが、しまい込まずに目の前にぶら下げておくようにお願いしている」との回答。
下世話な話で恐縮ながら、採算は取れているのかとの質問には、
「本業の映像制作がなりわいで、巻き寿司やさんは思いだけで突っ走っている。毎日、営業すれば違うかも知れないが、月1回、やりたいことだけをしている。材料費はかかっているが赤字にはなっていない。安く売るのは生産者に失礼と思う。ふんだんに食べてもらって、伝統野菜等を五感で感じる機会にしてもらいたい」
「もっとも美味しくないと伝わらない。直前まで試行錯誤を続けてメニューが決まらないことも」等の回答。
伝統野菜についても話題に。八幡さんからは
「伝統野菜だけで生計を立てている農家さんはいないのではないか。手間がかかる割に量はたくさん取れない。産地のJAの直売所等ならともかく、一般的なスーパーには並ばないので消費者が目にする機会も少ない。負のスパイラルで生産者が減少しているという実情にある」
との説明があったのに対して、東京・小金井市に住んでおられる方からは、
「小金井市は江戸東京野菜に力を入れていて、以前はフェアなど行っていて、毎年、楽しみにしていた」との感想も。
実際に巻き寿司やさんのお寿司を買ったことのある地元の方たちからは、
「八幡さんが情熱を込めて巻いておられる様子が目に浮かんだ。先月のパッションフルーツのお寿司は、開けた途端に香りが来て美味しかった」
「容器も美しく、ひもを解いて開ける時にはドキドキした」等の感想。
流通関係に携わっている男性からは
「作る側、売る側の努力だけでは限界がある。食べる側にも生産の実情を知ってもらう必要がある。地元という身近なところから深いつながりを作っていくことは重要な取組み」との意見。
これに対して、八幡さんから「自分で野菜を作ってみることも重要な経験になる」と話されたのに関連して、
「子どもたちには、葉っぱ付き泥付きのものを自分で洗うなどの経験をして、本当の野菜の色や味を知ってもらいたい」との意見を述べられた女性も。
「今も時々、巻き寿司を作りたくなる。容器も脱プラスチックに配慮していることにも感心した」との女性。
一方、「お寿司というと刺身のイメージしかなかったので、野菜のお寿司の話に引き込まれた」といった率直な驚きを述べられた男性も。
上田代表からは、
「色んな意味で素敵なプレゼンだった。情熱さえあれば、やろうと思えば、どんどん活動を広げていけることが伝わってきた。
これまでの5回の談話会を通じて、都市部でも若い人が農業を手伝い、関わっていけるような機会が重要と感じている。市民研では以前から子ども料理科学教室というものを開催しており、この中で野菜の種、育て方、旬などを学び、最後にはみんなで巻き寿司を作っている。ぜひ、八幡さんにも協力してもらえればと思った」等の感想。
「延長戦」も含めて21時30分過ぎに終了。今回も活発な談話会となりました。
八幡名子さん、上田代表、参加して下さった皆様、有難うございました。
いよいよ次回は6回シリーズの最終回。
2021年11月 9日(火)19時から、「食と資本主義の歴史ー人も自然も壊さない経済とは?(仮題)」と題して、平賀 緑さん(京都橘大学准教授)から話題提供を頂きます。
「田舎暮らし」など実践経験も豊富な方で、近著『食べものから学ぶ世界史:人も自然も壊さない経済とは?』 (2021.7、岩波ジュニア新書 ) は全国紙の書評で取り上げられるなど評判になっています。
多くの方の参加をお待ちしています。