【ほんのさわり】足達太郎ほか『農学と戦争』

−足達太郎、小塩海平、藤原辰史『農学と戦争−知られざる満州報国農場』(2019.4、岩波書店)−
 https://www.iwanami.co.jp/book/b450153.html

ロシアのウクライナへの武力侵攻により、食料安全保障の重要性に対する認識が高まっていますが、食料や農業は、ある意味、戦争と強い「親和性」があります。戦争遂行に当たって、食料の確保は不可欠の条件であるためです。

第二次世界大戦中の日本も、食料確保のための国策を強力に推進しました。
 国内では少年たちを食糧増産隊として動員して全国に報国農場を設けると同時に、植民地であった満洲(中国東北部)には「満洲報国農場」という制度をつくり、府県や農業団体に政府公認の農場(むろん、本来の所有者の現地の人たち)を割り当て、入植・移民させたのです。
 敗戦の年には70近い農場があり、約4600名(ほとんどは13〜20歳程度。うち4割は女性)が派遣されていました。そしてソ連の参戦により、満蒙開拓団の人たちと同様、多大の犠牲者を出したのです。本書が描いている東京農業大学の湖北報国農場(東安省)では、87名の実習生のうち53名が死亡または行方不明となったそうです。

本書が冷徹に描いているのは、命を支えるはずの食料や農業が、戦争遂行の口実とされたという歴史の事実です。
 そして、その国策を推進した政府高官や大学当局、農学者たちは、戦後、戦争責任を認めるどころか、関係資料を破棄するなど説明責任さえ放棄した事実を明らかにし、指弾しています。
 丸山眞男の「日本ファシズムの特色は、農本主義的特質が非常に優位を占めていること」という言葉が思い出されました。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 No.239、2022年4月1日(金)[和暦 弥生朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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