【ほんのさわり】中藤 玲『安いニッポン−』

−中藤 玲『安いニッポン−「価格」が示す停滞』(2021年3月、日経BP新書)−
 https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/2021/9784532264536/

著者は1987生まれ。愛媛新聞社を経て現在は日本経済新聞社編集局企業報道部に勤務し、2019年12月に3回にわたって連載された「安いニッポン」シリーズを担当しました。本書は、大きな反響を呼んだこの連載をもとに書き下ろされたものです。

海外旅行先で高い価格に驚いた著者は、各国の様々な「価格」を取材・調査し、日本と比較してみました。
 その結果、例えばディズニーランドの入園料(2021年2月中旬時点)は、日本は8,200円であるのに対して、アメリカ・フロリダでは1万4,500円、パリは1万8,000円と、日本の1.8〜2.2倍であることが明らかとなりました。
 また、ダイソー(百円均一ショップ)の商品価格は、日本の100円に対して、アメリカ・中国160円、台湾180円、タイ210円、オーストラリア220円等と、1.6〜2.2倍の水準でした。

この背景には、日本の長期にわたるデフレがあります。
 確かに「安さ」は、生活者にとっては「生活しやすい」メリットではあるものの、生産者(企業)にとっては収益が得られていないことを示しています。その結果、賃金は上がらず、勤労者の所得は上昇せず、消費が停滞するという悪循環に陥っているのです。
 これは日本独特の状況のようで、ダイソーへの取材によると、進出先の全ての国では人件費(賃金)が上昇し、所得も向上している結果、購買力が上がっているため、日本の2倍の値段であっても売れているというのです。

また、消費者アンケートによると、多くは生産者への還元を思うと適正価格が望ましいと思いつつ、自らの所得水準を考えると値上げは困るという本音も示されています。
 この状況のままでは、生産者にとっては、コストや価値に見合った収益が確保できないこととなり、さらには、日本全体の対外的な購買力は失われ、高い賃金を求める人材の海外流出も続くことも危惧されます。
 賃金と所得を増大させ、「成長と分配の好循環」を真に実現するためのマクロ財政政策等が、ますます重要となっているのではないでしょうか。

出典:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
  No.252、2022年10月10日(月)[和暦 長月十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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