【ブログ】日本の循環型農業の源流(今夜はご機嫌@銀座で農業)

2022年10月20日(木)は秋晴れ。ところが生憎と出勤日。

終業後、職場至近の東京・千代田区立日比谷図書文化館に立ち寄り、特別展「学年誌100年と玉井力三-描かれた昭和の子ども」を見学。

 洋画家・玉井力三(新潟・上越市柿崎出身)が1950~70年代にかけて描いた「学年誌」の表紙画が、壁や柱一杯に展示されています。
 学年誌は日本独自の出版文化だそうで(懐かしい)、生き生きとした子どもたちの表情が印象的です(11月15日まで開催中)。

久しぶりに銀座を歩き(海外のブランドショップばかり目立つようになりましたね~)、京橋の中央区立環境情報センターへ。

 月1回、開催されている「今夜はご機嫌@銀座で農業」の開催日です。
 以前は対面・交流をメインに開催していた「銀座農業コミュニティ塾」が、コロナ禍以降、人数を縮小し名称などを変更して続けられています(しばらくはオンライン開催でした)。

主催者の高安和夫さん((一社)トウヨウミツバチ協会)からの開会挨拶に続き、蔦谷栄一先生(農的社会デザイン研究所)さんによる講義が行われました。
 この日のテーマは「江戸時代の循環型農業とその源流」。
 ある酒造メーカーの季刊誌の原稿とのことで、事前にメールで送って下さっています。 

以下、蔦谷先生による講義の概要です(文責、中田)。

「昨年3月、農水省が決定・公表した『みどりの食料システム戦略』は科学技術・イノベーションに依存する内容となっているが、アジアモンスーン地帯という気候・風土のなかにある日本の本来的な農業の姿を示していく必要がある」
 「水田稲作は日本にとってまさに適地適作。灌漑システムを必要とするため治水・土木技術を発展させ、耕地面積や人口の増加を実現した。水田は3000年にわたる『労働の結晶』であり『日本の宝』」

「江戸時代には、森-里-川-海の循環のなかで、連作が可能で持続的な水田農業が営まれていた。雑木林など地域資源の尊重、農村自治による相互扶助、加工など複合経営が自給経済を支えた。地域特産物の生産・流通の拡大も、地域性と地域資源の重視につながった」

「食料安全保障のためには、持続性の高い水田稲作を守り、伝統的な食文化を再評価していくことを基本に据えるべき。大量の輸入農産物に依存している現在の食生活を前提として、水田の畑作化が推進されているのは本末転倒」

 「環境負荷の軽減や生物多様性の維持・回復などを含む持続性の確保に向けて、江戸時代、さらにそれ以前の先人の慣性・知恵等に学ぶべきことは多い」

後半は、参加者との間で質疑応答・意見交換。この日は3名の初参加の方がおられました。

「生産者からは再生産できる価格水準にないとの声が強い。それをどのように消費者につないでいくかが課題では。もっとも、自分の子どもにさえ伝えられていないのが実情」
 「食料安全保障のためには、自分たち消費者が意識を変えていくことも必要ではないか」等の意見。

「わら細工など文化そのものの魅力を発信するなど、消費者を巻き込んでいく仕掛けを作っていくために自分が何ができるかを考えていきたい」
 「技術の役割は重要。個々が感じたことを発信していくことが重要では」等のコメントもありました。

高安さんご夫妻は9月にイタリアで開催されたスローフード世界大会に参加されたそうで、ウガンダなどアフリカで小さな農園づくりが進んでいることなどの話題を提供して下さいました。

私からは、「水田農業の重要性に全く異論はないものの、今後も米の消費は減少していくと予想されるなか、どのようにすれば水田を守っていけるのか」と、(やや無茶ぶりの)質問をさせて頂いたところ、蔦谷先生からは、
 「改めて議論すべき難しい課題だが、例えば都市部を含めてすべての国民が農業に携わり、関心を持つ人が増えていけば、状況は変えていけるのではないか。また、防災など国土のグランドデザインづくりも必要となっている」等のコメントを頂きました。

20過ぎに終了後は、いつもの地下の安くて美味しい中華料理屋さんで延長戦。
 外食産業にもお客さんは戻りつつあるようですが、感染再拡大を予想する専門家の声があることは不安です。

この席で、参加者のお一人の方(様々な地域活動をされており、所沢駅近くの素敵な図書喫茶のオーナーでもあります)が、小川 誠『稲の多年草化栽培』というを貸して下さいました。

 著者は技術者や日本語教師として長く海外に滞在された後、帰国して不耕起・冬期湛水の米作りを実践されている方とのこと。本来、稲は多年草だったとは、初めて聞く話で驚きました。今日の蔦谷先生の講義とも関連しており、興味深い内容です。

なお、次回の「今夜はご機嫌@銀座で農業」は、11月24日(木)に開催予定です。
 どなたでも参加できますので、ご関心のある方は主催者にお問い合わせ下さい。

ところで、蔦谷先生も登壇されるイベント「川崎平右衛門フェスタ」が、11月3日(木・祝)、武蔵野芸能劇場小ホール(JR三鷹駅北口2分)で開催されます。

押立村(現・府中市)の名主であった川崎平右衛門は、「享保の改革」の時代、町奉行・大岡忠相の命を受けて武蔵野の新田開発を担いました。その功績が評価され、後に美濃の治水事業や石見銀山の立て直しにも尽力しています。
 この日は、現在の多摩地方発展の礎を築いたと言える平右衛門についての講演やリレートークが行われます。
 私も申し込みました。楽しみにしています。