【ブログ】川崎平右衛門フェスタ in 武蔵野市

2022年11月3日(木、文化の日)は、気持ちのいい秋晴れ。
 目的地に向かってぶらぶらと小金井公園を散歩。石神井川の最上流部はここにあったとは。近くには古い池。木の根元には丸く枯れ枝が置かれていました(バイオネスト準備中とのこと)。
 芝生やBBQ場所にはたくさんの家族連れの姿。駐車場は激コミ、周辺道路は大渋滞です(自動車の社会的費用?)。

目的地である三鷹駅北口の武蔵野芸能劇場小ホールに向かう道中は、ほとんどが市街地ですが、ところどころに農地や平地林が残っています。
 ここで13時から開催されたのは「川崎平右衛門フェスタ in 武蔵野市」。開会前から、80名以上の参加者で会場は溢れていました。

開会に当たって、川崎平右衛門顕彰会 会長の山田俊夫氏(参議院議員)から、「規制改革など大きな逆風はあるが、大切な都市農地を守っていきたい」等の挨拶(以下、文責・中田)。

続いて、大石 学先生(東京学芸大・名誉教授)による「川崎平右衛門と武蔵野新田開発-近代東京の歴史的前提」と題する記念講演。

 「日本の時代を古代、中世、近世、近代に区分すると、一般的には現代社会は近代(明治維新)以降に始まったとされるが、私は江戸時代と考える。100年の戦国から250年の平和を実現した時代。識字率など文化的リテラシーも高く、町は清潔。来日外国人の多くも高く評価している。盛んだった旅や参勤交代は地域経済のボトムアップにつながり、農村自治・民主化も進んだ。
 江戸時代は、ミゼラブルで愚かな、克服すべき時代ではない。西欧中心に進んできた現代文明が様々な限界に直面しているなか、見直すべき面も多いと考える」

「武蔵野は、巨大市場・江戸へ食べものを送るための地として近代農業が成立した。江戸の屎尿は武蔵野に運ばれ、肥料として用いられて循環していた。
 享保の改革の時代、都知事の原型もいえる大岡忠相(町奉行兼地方奉行)は、新田開発に尽力した。その時に、現地の事情に通じているために登用されたのが、押立村(現府中市)の名主・川崎平右衛門だった。
 平右衛門の功績は、地域復興と活性化。新田開発は新しい共同体の形成につながり、後に石見や佐渡でも官僚として活躍したことから、地域を超えた人的交流にも貢献したのではないかと考えられる」

 レジュメとパワーポイント、ホワイトボードを駆使した、熱のこもった講演でした。
 なお、明年2月19日(日)には、川崎平右衛門研究会の第1回シンポジウムがオンライン開催されるとの紹介も。ご著書も拝読したいと思います。

続いて、扶蘇文重さん(ワーカーズコープ三多摩山梨事業本部 本部長)から、「労働協同組合法の10月1日施行と川崎平右衛門への思い」と題して講演。

 「労働者協同組合とは、市民が協同で出資し平等な決定権を持ち、意見反映を通じて経営に参画し、生活と地域の必要に応える仕事をおこす協同労働の協同組合。多摩地域でも多くの組合が活動している」
 「地域の人たちと協働して新田開発を進めた川崎兵右衛門は、自分たちが暮らす地域への思いの下、共に生きる基盤を作って協働という価値を次世代の希望につないでいった。利他という普遍的な価値を歴史からも学んでいきたい」

後半は、蔦谷栄一先生(川崎平右衛門顕彰会 事務局長、農的社会デザイン研究所)の進行による「武蔵野市における農あるまちづくり」と題するリレートーク。

 まず、蔦谷先生から武蔵野市の農業の概要について説明。
 「農地(生産緑地)は減少が続いているが、農業従事者は全国平均ほど高齢化しておらず、女性も多い。市民のニーズに合わせた多品目の野菜等が生産されている」等の内容です。

リレートークの最初は、武蔵野市内で有機農業を営んでいる清水 茂さん。私も何度か畑を訪ねさせて頂いたことがあります。
 「子どもの頃は農地が広がり富士山も望めたが、すっかり都市化が進行し農家も減少。現在は狭さを活かして有機農業を行っている。近隣の大学でもらった落ち葉をたい肥として利用。
 農業は自然の恵みによって作物を育てると同時に、地域の共生の場ともなる。0歳から100歳の学びの場、交流の場である “森の幼稚園” の取組みも行っている」等の報告。

続いて、齋藤瑞枝さん(NPO武蔵野農業ふれあい村 代表)から、「市民が共に作った『農業ふれあい村』」の活動について、
 「20年前に相続が発生した農地を市が買い取り、NPOを設立し未就学児から大人までを対象に体験学習等を実施。『卒業生』は各地で体験農業等に取り組んでいるなど『輪』が広がっている」等の紹介がありました。

田中雅文さん(武蔵野の森を育てる会 会長)からは、「独歩の森のナラ枯れと再生」と題して、
 「国木田独歩『武蔵野』由来の緑地で、雑木林の保全活動を行っている。2年前からナラ枯れの被害が広がり、枯れ木がまとめて伐採された。その跡地に市民参加でどんぐりを播いて再生を図っており、100年後の子ども達につないでいきたい」等の報告がありました。

竹内ひろみさん(レックス(株)取締役、自然派料理研究家、管理栄養士)からは、「地産地消 一汁三菜 和食ベースの食生活のススメ」と題して、
 「私たちの体は食べた物でできている。食については様々な情報が溢れているが、一物全体、身土不二などの『幹』を大切にし、感謝の気持ちで頂くことが重要。和食がユネスコの無形文化遺産に認定されているように、食生活についても江戸時代から学ぶことが多い」等の報告。

最後に、玉木信博さん(ワーカーズコープ・センター事業団、小農・森林ワーカーズ全国ネットワーク事務局)からの報告。
 全国各地でのワーカーズコープの様々な活動(農福連携、大豆・味噌づくり、エネルギー自給、森のようちえん等)の紹介に続いて、全就労者の自給体制の確立等を目指す「小農・森林ワーカーズ全国ネットワーク」と、現在、賛同者を募っている旨の紹介がありました(後日、私も後日、メールで賛同書を送らせて頂きました)。

もとめとして蔦谷先生から、
 「現場での取組みの大切さを実感した。一方で都市農地は私有財産であり、厳しい目が向けられることもある。どのように公共性を保っていけるか、制度を含めて検討していくことが課題。
 今日の会は言いたいことを言っただけで終わりにしたくはないので、『武蔵野宣言』を提案したい」等の発言があり、事務局の方が朗読されました。

 「さらなる地産地消を進め都市農家を応援」「食文化を大切にしてフードロスを抑制」「都市農業に親しみ参画する」「武蔵野の農業と食、緑についての学習を深めていく」等の内容で、会場の拍手により承認されました。

いずれの講演、報告も非常に興味深い内容で、時間が足らなく感じられるほどでした。
 武蔵野市を含む三多摩から埼玉県南部にわたる武蔵野地域の農地や景観について、私が学ぶことができたと思っていることは二つです。
 一つは、武蔵野市を含む三多摩から埼玉県南部にわたる武蔵野地域において、現在も遺されている農地や平地林等の景観は、江戸時代の先人たちの尽力の賜物であること。
 もう一つは、それらの農地や景観は、農家の方を含む様々な市民の協働によって現在も維持されていること。

 パンデミックやロシアによるウクライナ侵攻により世界的に食料危機が叫ばれ、日本でも国全体としての食料安全保障が大きな課題となっていますが、まずは自らの足元、近いところから食べものや農業の問題を「自分ゴト」として捉え、できることから実践していくことこそが基本的に重要であることを、改めて考えさせて頂きました。