【ブログ】武蔵野の落ち葉堆肥農法セミナー(埼玉・三芳町)

2022年11月8日(火)は、埼玉・三芳町(みよしまち)へ。
 川越市、所沢市、ふじみ野市、三芳町にまたがる三富(さんとめ)地域の「武蔵野の落ち葉堆肥農法」は、平地林の落ち葉を堆肥として利用することで景観や生物多様性も育むという、江戸時代以来の伝統的農法システム。日本農業遺産にも認定されています。

 久しぶりに散策してその風景を楽しもうと、西武線・所沢駅からバスに乗り所沢ニュータウンで下車して歩き始めたのですが、この辺りには物流センター等が集中して立地していることもあり、大型トラック等ですごい交通量です。
 どうも、ゆったりと楽しめる雰囲気ではありません。

ところが道路から一歩脇道に入ってみると、一気に眺望が開け、広大な農地が広がっていました。その先には平地林も。三富の風景です。

林のなかの神明社に入ると、自動車の騒音も嘘のように聞こえなくなりました。「いも神社」の別名があるそうです。
 隣接する多聞院毘沙門堂の境内は紅葉が美しく、カメラを携えた参拝者の姿も。

 少し離れた多福寺は、三富開拓農民の菩提寺だそうです。見事な山門や鐘楼。

旧 島田家住宅は、現代も「寺子屋」として様々な郷土学習教室を行っているそうです。
 近くの大石燈籠・三富開拓地遺跡の碑を見学。

おっと、ここまでで予定より時間が掛かってしまいました。
 少し速足で三芳町総合体育館へ。汗ばむほどの好天です。何とかギリギリ間に合いました。

 この日、13時30分から3階の研修室で開催されたのは「武蔵野の落ち葉堆肥農法セミナー」。一番後ろの席しか残っていません。 

主催者の「武蔵野の落ち葉堆肥農法世界農業遺産推進協議会」会長でもある三芳町長からの開会挨拶。
 2017年に日本農業遺産に認定されていますが、さらにFAO(国連食糧農業機関)による世界農業遺産認定に向けて申請中との紹介もありました。

続いて農業ジャーナリスト、ベジアナの小谷あゆみさんによる講演。
 小谷さんには、昨年の食と農の市民談話会で話題提供頂くなど、様々な場面で多くの学びを頂いています。

(私のへなちょこスマホでは、最後方の席からは綺麗に写真を撮ることができませんでした。小谷さん、ごめんなさい)

写真もふんだんに使ったスライドを映写しながらの、分かりやすくて楽しい講演です(文責・中田)。
 「今日、お伝えしたいことは、農業遺産『武蔵野の落ち葉堆肥農法』は社会と地球の課題を解決する農法であるということ」

「石川テレビのアナウンサー時代、取材で農村に通ううちに食料生産だけではない農業・農村の多面的な価値(喜び、感動の物語)を知った。東京に来てからも自ら市民農園等で野菜を作っている。消費者が生産することの喜びを知り、農を自分ゴトにすることが大事」

(写真は、後日、小谷さんから送って頂いたスライドから。以下の2枚も同様)

「コロナ禍やウクライナ侵攻でグローバルな食料危機が顕在化。地球の限界(プラネタリーバウンダリー)を超えつつあり、グリーン・リカバリー(環境と共生する農業)を目指すことが必要」

 「FAOによる世界農業遺産(GIAHS)は、過去の遺産ではなく、地域に生き続ける宝。循環型の自然共生社会を再構築する必要から生まれた言わば食料版のSDGsで、日本では既に能登や阿蘇など13地域が認定されている」

「SDGsの土台は自然資本だが、武蔵野の土台は平地林資源。平地林(ヤマ)はみんなの宝。
 武蔵野の落ち葉堆肥農法は、大都市・東京の近郊にありながら、住民参加の下で維持されているところがすごい! 農業生産だけではなく、環境、教育、福祉等とも密接に関連」

 「落ち葉はき(肥料などにするため平地林の落ち葉を集めること)は農家にとっては労働だが、都市住民にとっては体験の楽しみになる。コロナ禍により世界的に農への回帰が始まっているなか、落ち葉堆肥を核とした武蔵野CSAを提案したい。
 関係市町の住民84万人を『落ち葉サポーター』と位置付け、『落ち葉はきの日』を制定するなど『耕す市民』を育成していけば、生産者と消費者という関係から脱却でき、農業の価値も見直されてくるのでは」

少々時間は短かったのが残念でしたが、小谷さんらしい、元気あふれる楽しいご講演でした。

続くプログラムは、女子栄養大学・三芳町ブランド化推進協議会による「癒しのレシピ」開発事業の紹介。
 指導された先生と4人の学生さんが登壇され、地域の野菜等を使ったレシピ作りの苦心、弁当や総菜等が実際に市内で販売されている様子等について報告がありました。

 スイートポテトサラダを試食させて頂きました。
 サツマイモだから甘ったるいかな(苦手)と思いきや、サッパリとして、添えられたアーモンドの食感も楽しい逸品。
 小谷さんからは「(いい意味で)裏切られた~!」との感想が。 

続いて、六次産業化商品の紹介。
 三富地域においては、地場農産物を加工する取組みも盛んに行われているようです。

 伝統的な品種「紅赤」を使った焼酎手づくりのジャムやトマトペーストなどを、実際に開発された生産者の方が紹介して下さいました。
 「苦労はあるが、自分が生産した農産物を余らせることなく利用できる。日本農業遺産に認定されたことで、自然食品店等で多く売れるようになり、落ち葉堆肥農法の認知度も高まった」等の発言も。

最後に、実践されている3人の農業者の方が登壇され、小谷さんからインタビュー。
 「落ち葉はきは、囲炉裏の焚き付けにするなど当たり前の生活の一部だった。それが遺産として認定されるとは気恥ずかしい思いもあるが、評価されたことに恥じないよう、これからも美味しい農産物を作っていきたい。体験学習にも取り組んでいきたい」
 「サツマイモでも野菜でも、落ち葉堆肥農法で作ったものは甘いと、買ってくれた人が言ってくれる」等の発言。

 いったんサラリーマンとなった後、実家の農業を継いで5年目という後継者の青年からは「誰から言われたのでもないが、16代も続いてきた農家を自分の代で潰すのはもったいないと思い、会社に辞表を出して就農した。親からは教えてもらうことばかりだったが、自分の代で干し芋や芋ようかん等の加工にも取り組み始めた。インスタグラム等を見て訪ねて下さるお客さんもいるなど、やりがいがある」等の話。

 軽やかに次々と楽しい話を引き出す小谷さんの司会ぶりも、さすがです。 

三富地域の落ち葉堆肥農法を支えている様々な方たち-生産者、生産者団体、大学生、首長・行政の方々が登壇され、それぞれの立場から思いのこもった発言があるなど、充実して興味深いイベントでした。
 充実したプログラムで、少々、時間が足らなかったかもしれません。

帰りは、武東上線・みずほ台駅に向かって歩くことに。快適な畑の中の道です。
 その快適さも美しい景観も、江戸時代から現代まで続く、多くの方々の尽力の賜物です。

途中には鎌倉街道の標柱。ここから鎌倉まで中世の街道が続いているとのこと。途中、私の地元を経由するので、せっかくなので歩いて帰ることに(ウソです。電車で帰りました)。
 自宅を目前にして力尽き、健康のために水分を補給。

(右の2枚は石川敏之さんの投稿から借用させて頂きました)

暗くなってきました。東の空からは、くっきりとまん丸いお月さま。
 帰宅後、数百年に一度という皆既月食が始まりました。しばし自宅のベランダで毛布をかぶって鑑賞。不思議な赤黒い色から、やがて光が射してきて満月に(私のへなちょこスマホでは綺うまく撮影できなかったので、右の2枚は「FB友達」の石川敏之さん(あきる野市・ゆっくり農縁)の投稿から借用させて頂きました)。

 アメリカでは中間選挙。色々と印象深い一日でした。