−小川 糸『ライオンのおやつ』(2022年10月、ポプラ文庫)−
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8101455.html
デビュー作『食堂かたつむり』(2008年)でも、食べものにまつわる優しい人生の物語を紡いだ著者の新作。2020年本屋大賞では2位にランクされたそうです(テレビドラマ化もされたとのこと)。
末期がんの33歳の主人公は、クリスマスの日、瀬戸内海の「レモン島」にあるホスピス「ライオンの家」に入居します。彼女を迎えてくれたのは「マドンナ」と名乗るオーナー兼看護士、医師などのスタッフ、個性的な入居者(ゲスト)たち、一匹の犬。それに高齢の姉妹が作ってくれるおいしい食べものでした。
毎日の朝食はお粥、昼はバイキング、夜は一汁三菜。地元産の柑橘類や魚がふんだんに使われています。
「生きる希望」ともなったのが、もう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる毎週日曜日の「おやつの時間」。一人ひとりの人生のエピソードとともに、豆花、カヌレ、牡丹餅などを味わいます。
次第に体の自由が利かず、意識がもうろうとすることが多くなってきたある日、彼女は部屋に持ち帰ったバナナから「きれいでしょ?」と話しかけられます。
驚いてバナナを見た彼女は、その美しさに愕然とします。工場で作られているわけではなく、地球からの贈り物で、ちゃんと地球とつながっているバナナ。そんな尊い命を感謝もせずに口に運び、残ると平気でゴミ箱に捨てていたこれまでの自分自身を思い起こして、「バナナの命も自分の命も、等しく尊いということ」を理解するのです。
最期まで死にたくないと思っていた彼女ですが、その命は、一本のろうそくのように、自分自身の命をすり減らして他の誰かを照らしながら、燃え尽きます。その思いが残された人たちに引き継がれている様子が描かれている巻末が、救いとなっています。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.254, 2022年11月8日(火)[和暦 神無月十五日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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