【ほんのさわり261】田口幹人『まちの本屋』

−田口幹人『まちの本屋−知を編み、血を継ぎ、地を耕す』(2019年5月、ポプラ文庫)−
 https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8101380.html

著者は1973年岩手県生まれ。盛岡市の書店での5年半の勤務を経て実家の書店を継ぐも、倒産。別の盛岡市内の書店に再就職し、独自の店づくりと情報発信によって全国的に注目された方です。

著者によると、「本屋は農業」とのこと。
 普段から客とのコミュニケーションを図り、常に棚にも手を加えて変えていくという(本屋を耕す)努力がなければ、いくらPOPやパネルを置いても、客との信頼感は生まれないとしています。

また、本屋は、地域と本の接点として、まちづくりや地域振興にも携わることができるともしています。
 郷土書の棚には、盛岡や岩手と関連する様々なジャンルの本を並べたそうです。例えば、岩手県の山村で耕し続けた人々の姿を描いた大牟羅 良『ものいわぬ農民』(1958)、田野畑村元開拓保健婦の岩見ヒサ『吾が住み処ここより他になし』(2010)には岩手県が原発を誘致しなかった理由にも触れられているそうです。

さらに、本の「地産地消」にも取り組みました。
 地元の宝を自分たちが再発見し、出版社に掛け合って本にしていくというもので、津波被災地で納棺師として活動した笹原留似子さんの『おもかげ復元師』は、全国的に評判となりました。

しかし、書店をめぐる経営環境の厳しさは本書でも繰り返し描かれています。著者自身も2019年、勤めていた書店を退職し、POPやパネルをすべて外しワゴンを解体した時の悔しさを吐露しています。
 「今までと同じやり方では本屋は生き残れない」とする著者は、現在、(特非)「読書の時間」理事長として、1人でも多くの“未来の読者”を創るための活動に取り組んでおられます。注目していきたいと思います。

[参考](特定非営利活動法人)読書の時間
 https://npodokusyonojikan.wixsite.com/info

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
 No.261、2023年2月20日(月)[和暦 如月朔日]  
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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