−谷口信和ほか『食料安保とみどり戦略を組み込んだ基本法改正へ−正念場を迎えた日本農政への提言』(日本農業年報68、2023年3月、筑波書房)−
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気候危機、パンデミック、ロシアによるウクライナ武力侵攻により世界的な食料危機および各国の農業の持続性の危機が顕在化するなか、現在、食料・農業・農村基本法の見直し作業が行われています。しかし、本書においては、現在までのところ日本農政の立て直しの方向は見えていないとして、11名の識者による基本法の改正の方向及び具体的な提言が収録されています。
編集代表でもある谷口信和(東京大学 名誉教授)は、新たな基本法の最重要目標は食料自給率の向上であるとし、その実現のためには、耕作放棄地の復旧を軸とした農地の拡大、農業への幅広い国民の参加、地産地消など循環型の地域農業の構築が重要であるとしています。
安藤光義(東京大学大学院 教授)は、日本農業(農家、担い手、農地)の縮小が進むなか、EUのような環境要件を強化した直接支払制度を展望することが必要としています。
蔦谷栄一(農的社会デザイン研究所 代表)は、農業・農村を社会的共通資本として位置付けていくことが最大のポイントであるとし、自然観・生命観をベースとした「本来農業」を根幹に置きつつ、直接所得補償、水田農業を中心とした多様な担い手の確保、自然循環と土づくり等を重視すべきとしています。
また、西山未真(宇都宮大学 教授)が、アメリカにおける食料供給体制改革の動きを参照しつつ紹介している「総合的食農政策」も、非常に興味深い内容です。
以上紹介できたのは一部ですが、他にもEU、スイス、中国、韓国の食料安全保障政策、山形県や北海道における動向など興味深い論考が含まれており、内容はやや専門的ながら、農政の現下の課題及び今後の方向の全体像を把握するうえで大いに参考となります。
なお、歴史のある本シリーズですが、出版元を変更することによって「出版継続に漕ぎつけた」との冒頭の記述からは、現在の出版をめぐる困難な情勢も垣間見えます。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.263、2023年3月22日(水)[和暦 閏如月朔日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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