−桐村里紗『腸と森の「土」を育てる−微生物が健康にする人と環境』 (2021/8、光文社新書)−
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045562
著者は1980年岡山県生まれの内科医・認定産業医。
臨床現場では生活習慣病から終末期医療まで幅広い診療経験を積まれると同時に、「ヘルスケア」の再定義など情報発信等に努めておられます。
著者によると、自分一人で健康になろうとする「ヘルスケア」は、エゴイズムに他ならないとのこと。なぜなら人と環境は一体だから。人と地球は別々の存在ではなく相互依存関係にあるという考えを基礎に、生態系を維持し、人を含めた地球全体の健康を実現すること(プラネタリーヘルス)が必要であると、著者は訴えます。
そのアプローチとして本書が提案しているのが、根を下ろす「土」の回復です。
森を観察することは、人と微生物が共に形成する生命システムを理解することにつながるとのこと。足元には苔やキノコが生え、落ち葉を払ってみるとミミズやヤスデなどの小さな生物たち、さらに目には見えない多くの微生物たちがいます。ふかふかの土は、彼らが有機物を分解することで形成されたものなのです。
また、森は、土の中の菌糸と植物の根が作るネットワークによって、あたかも一つの生命体のように情報交換や栄養の受け渡しを行っているという「マザーツリー」の概念も紹介されています。
一方、人の体内にも、腸内細菌等の働きによる同じメカニズム(「腸脳相関」)があるそうです。
森にとっても人にとっても大事なのは「土」であり、土を作る微生物との共生が求められています。そして「土」の回復のための核心には、日々の「食」という最も身近な営みがあるとしています。
その地域の文化や伝統、土に根差した食を選択し、食べものを大切にすることで、人と土(自分の腸の中と、地球・環境)を接続しなおし、人を生命の網(web of life)の一部へと回帰させることの重要性を訴えているのです。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.265、2023年4月20日(木)[和暦 弥生朔日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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