【ほんのさわり266】谷口吉光 編著『有機農業はこうして広がった』

−谷口吉光 編著『有機農業はこうして広がった』 (2023/2、コモンズ)−
 http://www.commonsonline.co.jp/new_books/2023/04/19/sensho9/

編著者の谷口吉光先生(秋田県立大教授、社会学)によると、「日本では有機農業は広がっていない」との通説は間違っているとのこと。農地面積等の統計でみれば全体の0.6%に過ぎないものの、有機農業を「ひとつの社会現象という物差し」で見ると、様々な形(運動、ビジネス、思想、政策)で広がっていると主張されています。
 この広がりを説明するために「有機農業の社会化」という概念が提示されています。これは「有機農業が社会的な問題の解決に貢献することを通じて、地域や社会に広がっていく動き」のことで、有機農業は「産業化」ではなく、その「価値と機能」によって広がっているという考え方です。この観点から、農水省の「みどり戦略」は「有機農業の産業化」の延長上にあると問題視しています。

本書では、千葉・いすみ市、岐阜・白川町、山形・高畠町、大分・臼杵市の先進事例について現地調査を行い、有機農業が広がったプロセスを詳しく分析しています。その結果、民間/行政主導、慣行からの転換/新規参入など、有機農業の広がりには様々なパターンがあることを明らかにしています。
 また、学校給食の有機化など首長がやると言えばトップダウンですぐできるといった浅い見方は間違いで、一人ひとりの価値観が変わる必要があるとの指摘もあります。

一方、著者の一人である長谷川 浩さん(母なる地球を守ろう研究所、福島・喜多方市)は「社会の有機農業化」を提案されています。これは、農的暮らしを営む市民を増やし、農業を支える社会をつくり、食農教育を教育の柱とすること等を内容とするもので、これらによる発想・価値観の変化がなければ食料・環境危機に対処できないと警鐘を鳴らしています。

多くの知見や示唆に富む好著です。しかし「豆知識」欄で紹介したように、日本人の有機食品購入金額が諸外国に比べて極めて低いことをみると、少なくとも消費面では有機農業はまだまだ広がっていないと言えるのではないでしょうか。

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
  No.266、2023年5月4日(木)[和暦 弥生十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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