【ブログ】行き詰まった食の現状を乗り越えるには

職場至近の東京・日比谷公園では、今年もユリの花が咲き始めました。
 季節は廻ります。

2023年5月2日(火)の夕刻は、月2回、通っている東京・世田谷区の桜新町へ。
 駅に着いて Google Map で「史跡」を検索してみると、弦巻(つるまき)砦というのが出てきました。行ってみると住宅地の中の小ぶりな神社で、説明標などもありません。後で調べてみると、世田谷城(吉良氏)の支城があった地との伝承があるとのこと。

19時からJA世田谷目黒ファーマーズセンターで開かれたのは、「農あるまちづくり講座」の第5回。
 蔦谷栄一先生(農的社会デザイン研究所)の司会の下、プランターでの野菜作りについて、JA東京中央の営農指導員である鈴木秀治さんから実践的なお話を頂きました。

 ご自身で培養土や野菜の種、トマトの苗を持参して下さり、分かりやすく説明して下さいました。早速、市民農園でも応用できそうです。

5月13日(土)の午後は、同じ世田谷区の経堂駅近くにあるNPO コミュニティスクール・まちデザインの市民講座に参加。
 生憎の雨模様です。

この日のテーマは「行き詰まった食の現状を乗り越えるには~資本主義経済のカラクリから考える~」。講師は京都橘大学経済学部 准教授の平賀緑さんです。

進行役は、農業ジャーナリストの榊田みどりさん。
 平賀さんのレジュメ(著書や参考資料・動画リストも)、論文のコピー、榊田さんによるインタビュー記事のコピーなどを配布して下さっています。

平賀さんによる講座は、以下のような内容でした。
 (なお、以下は中田の主観的な感想を箇条書き的に整理したもので、一部であり、かつ順不同です。文責は全て中田にあります。)

〇 『食』に限らず、私たちは資本主義の中で生きている。まずは、今の資本主義的な食料システムの成り立ちとカラクリを理解することから始めることが必要。

〇 新型コロナウイルスの感染拡大とロシアのウクライナ侵攻によって、世界的に食料危機のリスクが顕在化し、食品の値上げが相次ぐなど、グローバルな食料供給体制の脆弱さが露呈した。しかし、仮に戦争前の状況に戻ったとしても、根本的な問題は変わらない。

〇 グローバリゼーションのなか、食料についても国際的分業=貿易体制が確立。企業は大規模化し、少数の企業が供給体制の一部分を独占するようになった。
 フードシステムは砂時計に例えられる。(いちばん上にある)生産者や(いちばん下にある)消費者の数は多いが、その中間の流通・加工等は少数の企業が支配している。加工食品メーカーも寡占状態。

〇 日本の製粉・製糖・製油産業も、第一次世界大戦後に財閥系大企業による寡占状態が確立し、海外からの原料を加工する工場が臨海部に立地していた。戦後、原料の供給元はアジアからアメリカ等にシフトした。

〇 世界では現在、小麦・米・トウモロコシのたった3種類の作物が人口のカロリー摂取の過半を占めている。限られた作物、限られた生産国・輸出国に世界の人口の多くが依存している。

〇 そもそも穀物が『主食』になったのは、支配者にとって都合のいい作物だったため。例えばイモに比べると、穀物は貯蔵や運搬がしやすく、課税(査定)や富の蓄積にも有利。

〇 現在の資本主義的な食料システムは、地球環境も壊している。温室効果ガスの排出量を増やし、気候変動に加担しているという認識が欧米では広がっている。


〇 日本には、健康で文化的な最低限度の食生活を実現するという意味での食料政策は無い。

〇 ブランド化など付加価値重視の政策は、農家の経営的には真っ当な戦略かもしれないが、庶民の胃袋を満たすことにはつながらない。ワーキングプアのお母さんとその子どもなど、きちんと食べる余裕(カネ、時間、精神力)が無くなっている人が増えている。
 『食の格差』が拡がっているなか、食べる側を支援する政策が必要ではないか。

〇 食べものは単なる商品ではないと言われるが、資本主義経済では基本的に商品として生産され供給されている。その違いを認識した上での議論が重要。その上で、おカネで計られる交換価値が求められる商品より、生命の糧としての使用価値(有用性)を重視できる社会に移行していくことが必要では。

〇 現在でも、世界人口の7割以上を養っているのは、小規模生産者や女性による地域に根差した農業と言われている。これらは経済統計では十分に把握されていない。
 小さなプレイヤーたちが主役となり、ネットワーク状につながる食料供給システムの方が危機にも強靭。

〇 食は『コモンズ』とも言える。食べものを命の糧として分かち合える社会を創っていきたい。
 もともと経済(経世済民)という言葉は、世を治め人民の苦しみを救うという意味。命のための本来の経済を取り戻していくことが、今、私たちに問われている。

平賀さんのお話を聴くのは、一昨年11月の「食と農の市民談話会」を含めて何回目かですが、今回も刺激的な内容で、新たな知見や考察も追加されていました。

会場及びオンラインの参加者、さらには進行役の榊田さんからも次々と質問が出され、平賀さんも丁寧に応答されます。

私からも、以前からモヤモヤしていた疑問をぶつけてみました。
 「小さなプレイヤーによる活動が大切とのことだが、現在の資本主義体制の下では、結局、資本主義経済の中に組み込まれるだけではないか。本当に社会を変えることにつながるのか」

平賀先生からの回答は、概要、以下のようなものでした。
〇 私は資本主義を一気に覆すべきだなどとは考えていない。急激すぎる変革は、社会的弱者により破壊的なダメージを与えかねない。

〇 まずは身の回りを見直して、少しでも『お金』や『商品』の世界から離れてみる。例えばできる範囲で自給用の野菜を作り自炊をする。それで地域に根差した小さな農や食の営みの重要性に多くの人が気付けば、新しい道が開けるかも知れない。草の根的な、ゲリラ戦的な、アメーバのような対抗軸が広がれば、世界のシステムを変えることにつながるのではないか。

大いに触発された講座でした(その後の新宿での交流会を含め)。
 平賀さんはじめ、司会の榊田さん、主催者の皆様に感謝です。

 平賀さんの主張については、詳しくは(正確には)ご著書(『食べものから学ぶ世界史』『植物油の政治経済学』)、日本農民新聞のインタビュー記事等をご覧下さい。
 いずれにしても平賀さんが訴えたいことは、ジュニア新書の副題「人も自然も壊さない経済とは?」という言葉に象徴されているようです。