【ブログ】白川真澄さん『脱成長のポスト資本主義』出版記念の集い

2023年5月19日(金)、被爆地・広島で主要先進国首脳会議(G7)が厳戒態勢の中で開会。ウクライナのゼレンスキー大統領も来日、停戦と和平に向かうきっかけとなることを期待します。

翌20日(土)は、細かな雨がぱらつくなか東京・板橋へ。
 東武東上線・上板橋駅近くの公園では「子どもフェスタ」が開催されていました。白バイの試乗会には子ども達の長い列。

前野町にあるお米屋さんの軒先では「One-Drop」のマルシェが開催されていました。
 3月のECOM30周年ワークショップで知り合った方が、個人で毎月1回、自ら厳選されたエシカルやフェアトレードの商品を扱っておられます。
 福祉園のシフォンケーキ(「板橋のいっぴん」に認定)、スリランカのカレー、チョコレートなどを求めさせて頂きました。

続いて向かったのは早稲田。
 この日13時30分から、日本キリスト教会館(近くまで行って迷いました)で、白川真澄さんの「『脱成長のポスト資本主義』出版記念の集い」開催されました。シンポジウムと懇親会の二部構成です。

 著者の白川真澄さんは1942年京都市生まれ(この日の集いは白川さんの傘寿を祝う趣旨もあったようです)。
 白川さんは、60年安保闘争、ベトナム反戦運動、三里塚闘争等に関わり、現在はピープルズ・プラン研究所などで研究・普及、ネットワークづくり等に取り組んでおられる方。私は、高坂勝さん(SOSAプロジェクト)と共催されている「脱成長ミーティング」に何度も参加させて頂くなど、多くの学びを頂いています。
 (この会は2022年4月を最後にコロナ禍で中断しており、再開が待たれます。)

発起人代表の吉田和雄さん(白川さんの「親しい運動仲間」とのこと)の進行により開会。詳しいレジュメや関連するチラシに加え、「出版へのメッセージ」も配布されています。

シンポジウムでは、まず、白川さんから『脱成長のポスト資本主義』の補足と題して、概要、以下のような問題提起がありました(一部。文責は全て中田にあります)。

・戦争、気候危機など世界は危機と混乱に直面している。
 ウクライナ戦争は大国間代理戦争の側面が強まっている。ウクライナの民衆と社会はNATOへの依存を減らし、主体的な持続抵抗力を蓄えることが求められる。そのために「息継ぎ」のための停戦が必要。国際的な監視団の派遣等が不可欠。

・米中関係については、対立が激化する一方で経済的な相互依存関係は深化。経済安全保障論は、米中による世界の分断・分割を加速する。
 日本政府は「台湾有事」論(軍備増強論)をけん引するという犯罪的役割を演じているが、中国包囲網から脱し、日中間の対話と外交を回復することが必要では。

・気候危機には歯止めがかからず、グローバルサウスの債務危機など世界経済はますます不安定化している。

白川さんのビジョンは、以下のような「脱成長のポスト資本主義」です。

・労働力人口の急減等から経済成長は望めない。賃金が上がっても社会保障の将来への不安から消費支出は増えない。政府と政党(保守から左派まで)だけが経済成長の復活を夢見ており、人口減少社会の経済・労働・社会保障のビジョンを提示しようとしない。

・ケアを中心とする、社会的必要性の充足を最優先する経済・社会への転換が、脱成長のポスト資本主義の柱となる。医療や介護は最も公共性の高い分野(<コモン>の一つ)。その重要性は、コロナ禍でより切実なものと認知されるようになった。
 ケアの分野は多くの人手を必要とするため生産性は低く、低賃金という現状にある。ケア労働を社会的必要性の観点から根本的に見直すことが必要。社会の価値観を変えることにもつながり、地方分散ネットワーク型の経済・社会への転換を促し、地域内循環型経済の構築の柱となる。民主的管理(市民・住民の参加の下で地方自治体が管理・運営)の実現が必要。

・ケアをベーシックサービスとして提供するためには巨額の財源が必要となる。
 世界の政治=権力構造を変革するたたかいと、地域において資本主義支配システムを蚕食していく運動を結び付けていくことが課題。

白川さんの問題提起を受け、金子文夫さん(経済学)から「グローバル化はどうなるか」と題するコメント。
 グローバル化によって国家間、国家内の階層間の所得格差が拡大している現状、米中新冷戦の進行と限定性(相互依存の大きさ、グローバルサウスの台頭による覇権国としての求心力低下)等について指摘がありました。

大橋成子さん(ピープルズ・プラン研究所)からは「グローバルサウスは成長しなければならないか」とのタイトルで、実際に住んでおられたフィリピンを例に以下のようなコメント。

・フィリピンの「経済成長」は脆くていびつ。海外出稼ぎ労働者の送金に依存しており、アメリカや中国のコールセンター、電子カルテ等の業務を受託する専門企業が集中立地。ショッピングモールやカジノも乱立。

・その中で連帯と支え合いは現在も残っている。コロナ禍のロックダウンで「コミュニティ食糧庫」が出現。感染者の自宅の庭には近隣の住民から食料が投げ込まれた。国家が非効率で理不尽であるため、人々が自発的に行動するしかない社会となっている。

松谷 清さん(静岡市議会議員)からは、日本の民主主義を強くするためには地方自治体の議会の変革が必要であるとし、「虹とみどり自治体議員政策情報センター」の取組み等についての紹介がありました。

20分ほどの休憩を挟み(事務局の方が準備して下さっている間に、私は近隣の戸山公園を散歩)、15時40分頃からは立食で懇親会。

参加者の方々から、続々とスピーチがありました。
 ピープルズ・プラン研究所の立ち上げに携わった方たち。三里塚闘争に白川さんとともに参加し逮捕されかけたというエピソードを披露して下さった男性も。

比較的高齢の方が多い中、先日の統一地方選挙で当選された若い区議・市議の方たち(女性)の姿も。
 白川さんは政策的・理論的な支援だけではなく、ポスティングまでされたそうです。

明るい色のシャツなど記念品の贈呈。
 パートナーの方からは、学生時代に知り合った時の白川さんとのエピソード等を話して下さいました。会場からは笑いが起こる中、隣に立って神妙に聞いておられる白川さんの表情が印象的でした。

最後に白川さんからのスピーチがあり、「出版記念の集い」は盛況のうちに終了。
 白川さんの過去から現在までの活動/交流の奥深さ、幅広さを垣間見させて頂いたような気がしました。

白川さんはご著書のなかで「多くの地域で市民が主導権を発揮して左翼・リベラル・グリーン派の地方政府を実現」させ、「グローバル資本と国家の支配体制を蚕食する拠点」とし、全国レベルの「よりましな政権」を目指すべきとしています。
 ただ、本を読んだだけでは、その具体的なプロセスや手段については必ずしも十分には明確となっていないと感じていました。しかしこの日の会で、思いを同じくする地方議員の方が実際に増えている様子等を見、多くの方のお話を伺っていると、モヤモヤとしていたものが少し晴れたような気がしました。