【ほんのさわり268】島村菜津『シチリアの奇跡』

−島村菜津『シチリアの奇跡−マフィアからエシカルへ』(2022/12、新潮新書)−
 https://www.shinchosha.co.jp/book/610978/

著者は1963年長崎生まれ、福岡育ちのノンフィクション作家。イタリアのスローフード運動を紹介した『スローフードな人生!』(2000年)は大きな話題となり、私自身も当時、大いに触発されたことを覚えています。
 その著者が10年以上にわたって取材を続けてきたのがイタリアのシチリア島。シチリア島と言えば映画『ゴッドファーザー』で描かれているように、マフィアの本場というイメージがあります。

本書でもマフィアによる凶悪な事件の数々が描かれています。
 1991年、みかじめ料の支払いを拒否し、財界・司法界の腐敗体質を告発したパレルモ市の工場主は、商工会で孤立し銀行からの融資も拒否され、最後は背後から銃撃されて死亡します。翌年には、マフィアを裁こうとした二人の判事が相次いで爆殺されました。

これらの事件をきっかけに若者や市民が立ち上がります。500人の高校生と教師たちは反マフィアのプラカードを手に町を行進しました。
 ある学生たちのグループは「みかじめ料を払うのは尊厳を忘れた市民である」と書いたステッカーを、真夜中の目抜き通りに貼って回ります。次いで、みかじめ料を払わない店を応援したいという消費者の署名を集め、さらに、みかじめ料不払い宣言をする店を募集して消費者とつなぎ、マフィアにお金が流れない経済づくりに取り組みました。
 これは日常の買い物(財布による投票)がマフィア撲滅につながることを示した、画期的なエシカル消費運動であると著者は評価しています。

また、今やシチリアはイタリア最大の有機農業の地とのこと。
 マフィアから押収した土地をオーガニックの畑に変えて、在来種の小麦、オリーブ、ワインを作るという活動が盛んとなっているそうです。負のイメージを払拭するための地域おこしに取り組む人々の様子を、現地に取材した著者は活き活きと描いています。

著者は最後に、反マフィア活動を続けてきた神父の言葉を引用しています。
 「最も深刻な病は諦念であり、誰かがやってくれるだろうという考え。真の民主的な暮らしを実現していくためには、責任ある市民となるという自覚しかない」

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
 No.268、2023年5月20日(土)[和暦 卯月朔日]
 https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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