【ほんのさわり269】辻 信一『ナマケモノ教授のムダのてつがく』

−辻 信一『ナマケモノ教授のムダのてつがく-「役に立つ」を超える生き方とは』(2023/1、さくら舎)−
 https://namakemono.shop-pro.jp/?pid=171926845

著者は1952年東京生まれの文化人類学者、NGO「ナマケモノ倶楽部」代表、明治学院大学名誉教授。インドのサティシュ・クマールの思想や南米の民話「ハチドリのひとしずく」を日本に紹介した方としても著名です。

本書で著者は、コロナ禍のなか「不要不急を避けよ」と叫ばれるなど、ムダに対する風当たりが強まり、ムダが忌避・敵視されることで、世の中はずいぶんと生きづらくなっているのではないかと警鐘を鳴らしています。
 著者によると、ムダというのは、ある特定の視点(効率化や合理化)からの「ひとつの」価値判断に過ぎないものとのこと。計測可能な指標のみによって計算されるGDPからは「幸せ」がすっぼり抜け落ちているとします。その上で、社会が曲がり角にある現在、「役に立つ」という発想を超え、遊びやゆとりといった「ムダ」(計測不能な価値)を取り込んでいくことが必要ではないか、と問題提起しているのです。

また、「わかりやすさ」ばかりを求めるのではなく、「わからないという宙ぶらりん」の状態に耐えることも重要であるとし、「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念も紹介されています。
 さらに著者は「答えは足もとの土にある」とした上で、土壌微生物の働きを重視するリジェネラティブ(大地再生)農業の世界的な広がり、これまでのグローバル化の流れを転換するローカリゼーションの動きに希望を見出しています。

最後に著者は、「時間をムダにするとは、自分の時間を生き、自分の人生を生きること。愛とは、惜しげなく相手のために時間を使うこと」であるとし、「あなたは効率的に愛されたいですか」と読者に問いかけています。

参考:ナマケモノ倶楽部ホームページ(辻先生のブログも)
  https://www.sloth.gr.jp/

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
 No.269、2023年6月18日(日)[和暦 皐月朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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