−堤 未果『ルポ 食が壊れるルポ-私たちは何を食べさせられるのか?』(2022.1、文春新書)−
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166613854
著者は東京生まれ。ニューヨーク州立大学で学位を取得した後、国連、証券会社での勤務を経て、現在は国際ジャーナリストとして貧困問題や公共政策等について鋭い警鐘を鳴らし続けています。
その著者が今回ターゲットにしたのが、世界的な「食」の問題です。
気候変動、感染症、人口爆発等の危機下にある現在、静かに「食システムのグレートリセット」が進んでいるとのこと。その推進役となっているのは、ビル・ゲイツらの大富豪(投資家)やグローバル企業であり、彼らによる一元支配がいよいよ食と農の分野に参入し、急速・着実に勢力を拡大しているとします(「ウォール街は笑いが止まらない」とも)。
しかし救世主のようにに見える先端技術は、実はディストピアの予兆かも知れないと著者は警告します。すなわち、人工肉にはGM(遺伝子組み換え)大豆や酵母が用いられ、培養肉は特許のついた顔のない「細胞」に過ぎず、デジタル農業の推進は少数の企業による個々の農家の情報の囲い込みであると言うのです。
さらに、各国政府はグローバル企業等に忖度してGMやゲノム編集技術に関する規制を緩和し、国連食料システムサミット(2021.9)はグローバル企業等に乗っ取られたとし、そのサミットの場で発表された日本の「みどりの食料システム戦略」も同じ方向にあるとしています。
一方で著者は、これらと真逆の方向で危機を救おうとする「もう一つのリセット」も世界各地で進んでいるとします。そのプレイヤーは小規模農家や消費者、地方行政であるとし、日本の学校給食有機化の取組みのほか、故・稲葉光圀氏、吉田俊道氏、宇根豊氏の実践等を紹介されています。
特に、環境を破壊するのは(「悪魔化」されている)牛ではなくその飼い方であるとして、紹介している放牧による「牛と草との共生サイクル」の内容は興味深いものでした。
ただ、総じて先端技術を重視するグローバル企業等と、自然循環や土壌の役割を大切にする小規模なプレイヤーとを、お互いに全く相容れないものとして二極対立的に置き、前者の「悪行」を一方的に指弾するかのような筆者の論法は、分かりやすく刺激的で、かつ痛快かも知れませんが、やや構造が単純化されているような懸念も禁じえませんでした。
いずれにしても、本書に盛り込まれている世界の食と農を取り巻く最先端の情報について、その内容を吟味し、主体的に日々の行動に反映していくのは私たち自身です。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.270、2023年7月2日(日)[和暦 皐月十五日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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