2023年7月14日(金)は休暇。
6時半過ぎに起き出して、知人に頼まれていたパンのフード・マイレージ(輸入/国産小麦の比較)を試算して送信。ところが後に連絡があり、意に添わなかったのか予定していた講座では使用しないと。せっかく作業した試算結果を一方的にボツにされるのは初めての経験。色んな人がいますね。やれやれ。
久しぶりに八王子市堀之内へ。コロナ禍が続いたことから、どこに伺うのも概ね「久しぶり」です。
11時に京王堀之内駅に到着。
この日の集まりの主催者である鈴木亨さん(自称「牧場のおっさん」)、森 良さん(エコ・コミュニケーションセンター)、舩木翔平さん(八王子市議)が待っていて下さいました。
山形・長井市から来られたゲストの菅野芳秀さん(かんの・よしひでさん、ブログはこちら農家)も、伺っていた予定より早く到着されていました。皆様、お待たせして申し訳ありませんでした。
鈴木亨さんが経営されていたユギムラ牧場には、かつて何度か見学に来させて頂き、多摩ニュータウン建設が進むなかで農地を守り抜いたお話などを伺ったことがあります。話される言葉の力強さなどは変わりませんが、目が不自由になられているそうです。
多機能型事業所・かたくりの家のレストランで昼食。鈴木さんが設立に携われた社会福祉法人・由木かたくりの会が運営しています。玄関を入ったところには蝶の標本。日替わり定食はピリ辛で美味。
障がいのある方が元気に接客して下さいました。ご馳走様でした。
鈴木さんの元牛舎に移動。
農業生産法人アンドファームユギの大神辰裕さんが説明して下さいました。牛はいなくなっていますが、牛舎は改装され、体験農園や社会福祉法人の事務所等として活用されているとのこと。太陽光パネルによる自家発電も。
鈴木さんのご自宅に移動。大きな犬(レオ君)の姿も。
かつて養蚕をされていたという広間に、地元の方を中心に20名ほどの方が集まり、「これからの農業と地域づくりを考える」会の開催です。
まず大神さんから、新規就農の課題等について説明を頂きました。大神さんご自身は福岡県糸島の稲作農家のご出身で、東京・八王子の鈴木さんの元で新規就農されたという方。
「都市にこそ『人々をつなぐ』農業が必要ということを、これからも伝えていきたい」等と話されました。
続いて、「73歳の百姓」と自己紹介された菅野芳秀さんから、地域の現状、これまで取り組んで来られたレインボープランや置賜自給圏構想等について説明して下さいました(以下は一部。また、文責はすべて中田にあります)。
「地域では、先祖の汗の賜物である水田を次世代にたすき渡ししようと、多くの専業農家が真摯に農業を営んできた。ところが、もう続けられなくなりつつある。『農じまい』という言葉が、全国的に、普通に使われるようになっている。ここ数年でさらに多くの農家が離農すると予想されている」
「本来、農業とは成長するものではない。ところが成長する計画を提出しないと機械が壊れても助成してもらえないという制度になっている。水田農業はコストが賄えていない状況で、大規模農家ほど厳しい。
田んぼをつくることは命そのものと、採算を度外視してこれまで農業を続け、地域の景観や環境を守ってきた農家の気持ちに、政治や消費者は甘えているのではないか」
感情に流されないように努めて抑制的に話される菅野さんですが、言葉の端々に焦燥感と怒り、諦めさえ感じられました。都会の一消費者でもある私自身の胸に付き刺さります。
休憩を挟み、森さんの進行によるワークショップ。森さんは鈴木さんとも菅野さんとも旧知だそうです。
大神さん、菅野さんの話を受けて、八王子ではどのように展開していくかについて自由に意見交換。
都会の消費者の意識改革が必要ではないか、CSA等で新規就農者を応援したい、都市農業を緑の空間と考えて活用しては、推進しようとする主体が相互につながっておらず、行政やJAの役割が求められるのではないか等の意見が出されました。
参加された国会議員の方が口にされた「生存農業」という言葉が、この日のキーワードの一つとなりました。
例によって森さんがホワイトボードに書き出し、論点を整理されていきます。
森さんからは、シェアダーチャ、小さな市町村と生産者のためのアンテナショップネットワーク、地域の力を引き出しつなぐファシリテーター養成講座等の取組みについても紹介がありました。
その後は、時間の許す方が残って懇親会。
話題は尽きませんでしたが、遠隔地の私は20時過ぎに失礼させて頂きました。
この日の菅野さんの「農じまい」という言葉を聞き、先日の上映会・トークショーにおける大野和興さん(日刊ベリタ)の「農村地域では自作農が解体しつつある」、白石好孝さん(練馬・白石農園)の「隔世の感」という言葉を思い出しました。
頭の整理のために、以前に作成したものをリバイスしたものが下のグラフです。
世界の食料価格は、パンデミック、ウクライナ危機の影響もあり、近年、高騰しています。最近はやや落ち着きを見せているものの、中国など人口超大国が食料輸入を大きく増やしている現状、さらには気候リスクを考えると、全く楽観できないフェーズに移行しつつあると言えます。
そのような中、日本の食料自給率(カロリーベース、生産額ベース)は、これまで一貫して低下傾向で推移してきました。最近はほぼ横ばいですが、需要面(高齢化や人口減少)を考慮すると、国内の農業生産のポテンシャルは低下していると言わざるを得ません。
さらに日本の貿易収支の推移をみると、これまで工業製品の輸出等により多額の貿易黒字を計上してきたため食料は海外から自由に購入(輸入)することができていました。ところが、この頼みの貿易収支も近年は赤字基調となっており、2022年にはついに約20兆円と過去最大幅の赤字を計上するに至っています(輸入に依存しているエネルギーや食(飼)料の価格高騰も大きな理由です)。
日本の国力(経済力)は、明らかに衰退しつつあります。国力を反映して決まる為替レートは徐々に円安に振れていき、海外からの購買力は低下し、農産物の内外価格差も縮小して、結果として食料自給率も上昇に転じるのかもしれません。
問題は、その時まで、菅野さん達のような農家の方々が地域で踏ん張って下さっているかどうか。「農じまい」が広がると、国内の農業生産力は大幅に低下することになります。
故・山下惣一さん(佐賀の農民作家)は、かねがね、農業問題は(食べられなくなる)都会の消費者の問題であると警鐘を鳴らし続けておられました。
今こそ、都会の消費者は(私自身もその一人ですが)、農村の現実を知り、新規就農者を含めた農業生産者を支えていくための行動を取ることが求められていると思うのですが、いかがでしょうか。