【ほんのさわり273】阮 蔚『世界食料危機』

−阮 蔚『世界食料危機』(2023.9、日経プレミアシリーズ)−
 https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/22/08/08/00308/

著者(るあん・うえい氏)は中国・湖南省生まれ。上海外国語大学日本語学部を卒業し上智大学大学院で経営学修士を修了。現在は農林中金総合研究所の理事研究員を務めておられます。
 著者は農業調査のために世界を回る中で、アメリカ等の大規模で工業化された農業と、途上国などの零細個人農家の間に埋めがたい格差があることに気付きました。
 その格差は、気候などの農業の生産条件から自然発生的に生じたものではありません。
 戦後、アメリカや欧州(EU)は深刻な穀物の過剰生産に陥りました。これら先進国は、自己中心的な補助金付きの輸出競争を繰り広げ、その結果、アフリカ等の途上国は輸入食料(援助を含む)への依存を強め、農業の自立と食料自給が阻害されたというのです。
 そのアフリカや中東では、近年、輸送距離(コスト)や価格の面から、ロシアやウクライナ産穀物への依存度を高めています。そのため、今回のロシアによるウクライナ武力侵攻はこれらの国を直撃し、干ばつともあいまって深刻な食料危機と社会不安をもたらしているのです。

また、20世紀における飢餓の大半は戦争や部族紛争等の人為的な原因で起きたとしつつ、今後は気候危機が食料生産に深刻な影響を及ぼす可能性があるとした上で、日本の食料安全保障についても提言しています。すなわち、国際協調や備蓄の充実に加えて、一定水準の国産を追求すべき時に来ているのではないかというのです。そして、増産のカギは安定した需要であり、生産者が安心して継続的投資を行える環境整備が必要としています。
 さらに、飢餓に苦しむアフリカと、おおむね自給体制を構築できているアジアとを対比する中で、連作障害が起きにくく生産を安定させやすい作物としての米の長所について指摘していることも印象に残りました。

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
 No.273、2023年8月16日(水)[和暦 文月朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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