【ポイント】
著者の思い出に残っている「ごはん」は、東京大空襲の翌日に食べたサツマイモの天ぷらなど、苦くてしょっぱいものばかりとのこと。
−向田邦子『父の詫び状』(2006.2、文春文庫)−
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167277215
1924年東京に生まれ、放送作家として大活躍中の1956年に台湾での航空機事故で急逝した著者の、最初のエッセイ集です。
家庭内で暴君として威張り散らし、それでもどこかユーモラスな父からもらった一行だけの詫び状の思い出について記した表題作を含め、24編の短編が収められています。タイトルだけでも「食」関連のものが8編(海苔巻、カレー、卵など)あり、表題作も、もらいものの伊勢海老をきっかけに父の思い出が語られるというストーリーになっています。
これらの中から、ここで紹介するのは『ごはん』。
1945年の東京大空襲の夜、当時女学校の三年生だった著者は初めて靴のまま畳に上がり、水を掛けて回ります。翌日、何とか焼け残った自宅で、父は「最後にうまいものを食べて死のう」と言い出し、埋めてあったサツマイモを掘り出しててんぷらにして家族で食べます。著者は、自分の家を土足で汚し、年端も行かぬ子どもたちを飢えたまま死なせる父の無念を想像します。
病気になった小学校三年生の時、通院するたびに母が連れて行ってくれた鰻屋では、自分にだけ注文してくれた一人前の鰻丼を気兼ねしいしい食べたそうです。
「楽しいだけではなく、甘い中に苦みがあり、しょっぱい涙の味がして、生き死ににかかわりのあったこのふたつの『ごはん』が、どうしても思い出に引っかかってくる」と著者は記します。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.279、2023年11月13日(月)[和暦 神無月朔日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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