【ほんのさわり281】高島善哉『アダム・スミス』

【ポイント】
 市場メカニズムが発揮されるためには、その前提として道徳、共感が必要。

−高島善哉『アダム・スミス』(岩波新書、1968.8)−
 https://www.iwanami.co.jp/book/b267091.html

アダム・スミス研究の第一人者とされた著者(1904〜1990)が、1960年代に著した入門書です。記述の時代背景等に古さは感じるものの、いま読んでも多くの示唆に富んでおり、現に増刷が続けられているようです。

著者が本書でもっとも訴えたいのは、「いまなお残っている一知半解のスミス像(=自由放任主義の元祖)は、この辺でもうきっぱりと清算されてしかるべきではないか」ということです。

スミスの著作としては『国富論(諸国民の富)』が有名ですが、もう一冊の主著に『道徳感情論』があります。1759年に初版が刊行された本書は、『国富論』の刊行(1776年)を挟んで改定を重ね、最後の第6版が刊行されたのは亡くなる1790年のことでした。いわば『道徳感情論』こそがスミスのライフワークであり、『国富論』はその一部、分身なのです。スミスは経済学者である前に道徳哲学者だったのです。

『道徳感情論』の中でスミスは、「Sympathy」という人間の自然な感情の重要性を強調しています。「Sympathy」は本書では「同情」と訳されていますが、「共感」「同感」と訳されることもあります。人間は、他人の立場に身を置く(想像する)ことによって、その悲しみや喜びを感じることができる。これがモラルや良心を育むとしているのです。
 スミスは、利己心こそが経済活動の原動力であるとしつつも、決して自分の利益追求のためなら何をしてもよいとしている訳ではありません。自由な経済活動の前提として、一人ひとりの道徳が不可欠であるとしているのです。

世界的に資本主義が行き詰まりを見せている近年、スミスを再評価する書籍が多く出版されています。1960年代の「スミス像を清算すべき」との著者の訴えは、現在、実現しつつあるのです。

(参考)
 以下は近年、出版されたアダム・スミス関連の書籍のなかで、特に印象に残ったものです。
1 高 哲男『アダム・スミス−競争と共感、そして自由な社会へ』(2017.5、講談社)
2 ジェシー・ノーマン『アダム・スミス−共感の経済学』(2022.2、早川書房)
3 カトリーン・マルサル 『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? 』(2021.11、河出書房新社)
 (3はジェンダーの観点からの現代経済学批判という興味深い内容ですが、スミスに関しては一面的な(通俗的な)評価にとどまっているところは残念です。)

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
 No.281、2023年12月13日(水)[和暦 霜月朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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