【ブログ】広島での林間放牧酪農への挑戦(第199回霞ヶ関ばたけ)

2024年2月5日(月)の午後から東京地方は雪になりました。
 高速道路が予防的通行止めになるなど、交通にも大きな影響。結局、首都高速道路は全面解除まで53時間も掛かりました。路面凍結による転倒などで300人近くが重軽傷。東京圏は雪に対しても脆弱です。
 6日後の11日(日)になっても、西武新宿線・久米川駅前のロータリーには汚れた雪の山が残っていました。

 自宅近くに一画を借りている市民農園。
 収穫した白菜の株から、新しい(美味しそうな)葉が出ています。これも「菌ちゃん農法」の効果でしょうか。それとも暖冬の影響かも。

2月10日(土)の午前中は、東京・虎ノ門へ。
 官民共創HUBで9時半から開催されたのは、第199回霞ヶ関ばたけ「広島での林間放牧酪農への挑戦~ナフィールドを通じて掴んだこと」
 オンラインを含め、20名以上の方が参加。農家、民間企業、研究者、公務員など様々です。

 冒頭、メンバーのTさんから霞ヶ関ばたけの紹介(Tさんは司会は初めてで緊張されていたようですが、しっかりと伝わってきました)。
 霞ヶ関ばたけは、行政や民間、生産者や消費者といった異なる立場の人が集まり、組織や立場を離れて、食や農林水産業について対話をしながら相互に学んでいく暖かいコミュニティを作り、「おいしい未来」の実現を目指しているとのこと。

続いて、ナビゲーター役の前田茂雄さんが登壇されました。
 前田さんは東京農業大、米国留学を経て2000年に実家の前田農産(北海道本別町の畑作農家)で就農。約140haでパン用小麦等を栽培し、電子レンジで調理できるポップコーン等の加工・直売にも取り組んでおられます。

 2016年には、日本人として初めて Nuffield Farming Scholarship (農業者向け奨学金制度)のアイルランド会議に参加。世界各国の農業者との交流を通じた研修プログラムに大きな示唆を受け、2019年、仲間と(一社)ナフィールドジャパンを設立されたそうです。

右は前田農産のHPより。

前田さんによると、スカラー(奨学生)になるために必要な資質は、情熱と行動力、スポンサー(農林中金)をはじめとする周りへの感謝とのこと。毎年1名のスカラーを輩出しており、2021年のスカラーがこの後に登壇する久保さんとだそうです。
 前田さんは「農業界のジョン万次郎よ、出でよ」と、力強く訴えられました。 

(一社)ナフィールドジャパンのHPより。

続いて、本人のメインゲストである久保宏輔さん(久保アグリファーム、広島市湯来町)がマイクを取られました(文責は中田にあります)。

 「広島市中心部から車で50分ほどの中山間地で、35ha(マツダスタジアム7個分(さすが広島の方!))、ホルスタイン120頭規模の牧場を経営。林間放牧は始めたばかり。
 創業者である祖父の『自らつくり自ら売ることが農業の自立』という、六次産業化の先駆けともいえる言葉を大切にして、ジェラートへの加工・販売、カフェ、産直市にも取り組んでいる。いちごのハウス栽培も始めた。将来はワイナリーやホテルも手掛けたい」

「順風満帆のように聞こえるかもしれないが、もがきながらやっている。いちごのハウスも、一度、雪でつぶれた。やめようかとも思ったがクラウドファンディングで再建。コロナ禍の時は、保育園など販売先がなくなって牛乳が大量に余った。仲間と知恵を絞ってドライブスルー形式の直売を始めたところ、多くの方が買いに来て下さった。お礼や励ましの手紙を読んで、改めて食の大切さを痛感した。食べることの本質的な価値に迫りたい、そのことを感じられる牧場にしたいという思いが強くなり、放牧に取り組み始めた」

右は久保アグリファームのHPより。

「その頃にナフィールドと出会った。英語の得意な友人に助けてもらって応募書類を書き、面接に臨み、気合で合格することができた。世界各地の100軒以上の農家を訪問するなど、スカラー仲間との研修は貴重な経験だった。
 移動式牛舎により同じ場所に牛をとどめないようにするなど、放牧のノウハウも学べた。ナフィールドには1700人のOB、OGがいる。世界中に農でつながる仲間がいて、個人の見学旅行の時も宿泊場所も含めてお世話になった」

「林間放牧のための開墾は、お客さん(消費者)の皆さんと一緒に作業し、毎年1haずつ拡張している。多くの実のなる木も植えた。
 食べることを楽しめる場所にしていきたい。ぜひ実際に来て、見て、放牧の素晴らしさを実感してほしい」

左は久保アグリファームのHPより。

グループ(テーブル)毎に感想等をシェア。私のテーブルには前田さんが加わって下さったこともあり、色々と質問などさせて頂きました。
 地球環境問題や動物福祉の観点から畜産を「悪者視」するような風潮には、世界の畜産農家は忸怩たる思いを持ちながらも、真剣に受け止めておられるそうです。

 会場全体での質疑応答。
 イギリスのオーガニック牛乳の現状(→2割ほどのプレミアム付きで販売されている。それでも日本より安いのではないか)、海外の人から見た日本の酪農や農業の特徴(→品種が少ないこと、牧場と住宅地との間が近いこと、アプリ等のIT技術の導入が進んでいないこと)、久保アグリファームでの具体的な牧草の種類等について、活発な質疑応答がなされました。

農業が主要輸出産業となっているオーストラリアやニュージーランド等では、農業以外の産業界も一体となって農業者の育成に取り組んでいるという前田さんの話も、強く印象に残りました。

機会があれば、世界的な視野を持って経営されている前田さんや久保さんの農場を、ぜひ訪問・見学したいと強く思いました。

最後に、講師のお二人を囲んで全員で記念撮影。霞が関ばたけのHPに掲載されている写真の指は「J」を表しています。
 今回も素晴らしい、高田有菜さんのグラフィックレコーディングも掲載されています。

農林水産省の若手職員たちが運営している霞ケ関ばたけも、次回は節目の200回を迎えます。日時や内容は、フェイスブックページ等で告知されると思います。

(ご参考)
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
 https://food-mileage.jp/
メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」(月2回、登録無料)
 https://www.mag2.com/m/0001579997