【メルマガ】F.M.Letter No.291-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.291◇
 2024年5月8日(水)[和暦 卯月朔日]
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◆ F.M.豆知識  中山間地域に多い「消滅可能性自治体」
◆ O.カレント  群馬・南牧村
◆ ほんのさわり 速水 融『歴史人口学で見た日本−増補版』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 今年のGWも、福島・喜多方市山都での堰浚いボランティアに参加させて頂きました。今号も引き続き都市と農村について考えてみます。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−中山間地域に多い「消滅可能性自治体」−

【ポイント】
 「消滅可能性自治体」に分類された自治体は、中山間地域で特に多くなっています。

民間の有識者グループ「人口戦略会議」(三村明夫 議長、増田寛也 副議長)は先月、「令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート」を公表しました。
 これは2014年の日本創生会議による分析を踏まえつつ、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」(2023年推計)における20〜39 歳の女性人口(若年女性人口)の将来動向に基づいて、全国の地方自治体を「自立可能性自治体」「ブラックホール型自治体」「消滅可能性自治体」及び「その他」に4分類したものです。
 これによると、消滅可能性自治体(若年女性人口の減少率が50%以上)に分類されたのは全国で744あり、これは全自治体の43%を占めています。

リンク先の図291は、4分類された自治体の数を全国農業地域類型別に示したものです。
 なお、農業地域類型とは、市区町村等ごとに地域の土地利用上の特性により類型化したもので、「中間農業地域」と「山間農業地域」を合わせて一般に「中山間地域」と呼んでいます。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/05/291_shometu.pdf

消滅可能性自治体の数を全国農業地域類型別にみると、中間農業地帯が325、山間農業地帯で247と合計で572自治体となり、全国の消滅可能性自治体の77%は中山間地域にあることが分かります。
 また、消滅可能性自治体の割合は、都市的地域では9%に留まっているのに対し、中間農業地域では60%、山間農業地域では75%(中山間地域では65%)と高くなっています。
 このように「消滅可能性自治体」については、条件不利とされる中山間地域に多いことが分かります。

なお、若年女性人口の将来予測のみで「消滅可能性」を判断するという手法は、単純で分かりやすいとはいえ、やや適切ではない面もあると感じます。あたかも女性を「産む機械」であるかのように扱っており、また、「消滅」という強い言葉がそれぞれの地域で活性化に取り組んでいる行政や民間の方々の努力や思いを貶めることとなりかねないと思われるためです。

[データの出典]
 人口戦略会議「令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート」(2024年4月)、農林水産省「農業地域類型(2023年3月改定)」から作成。
 https://www.hit-north.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/04/01_report-1.pdf
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/chiiki_ruikei/setsumei.html

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−群馬・南牧村−

【ポイント】
 消滅可能性ランキング1位とされる群馬・南牧村では、地元の方を含め移住者など様々な方が、特産品づくりや民宿等の地域活性化に取り組んでおられます。

写真はECOM主催ツアー参加時のもの(2017年12月)

前回(日本創生会議、2014年)に続いて今回の「人口戦略会議」のレポートにおいても「消滅可能性第一位」にランキング(若年人口変化率:マイナス88%)されたのが、群馬県南西部の山間部にある南牧村(なんもくむら)です。

その南牧村を、NPOエコ・コミュニケーションセンター(ECOM)主催のツアーで訪ねたのは、2017年12月のことでした。「消滅可能性」第一位にランクされただけに、さぞや人も少なく、寂しいところかと思っていたのですが、その予想は見事に裏切られました。

 上信越自動車道下仁田ICを降り、村に入って間もなく現れたのは道の駅・オアシス南牧。直売所には多くの野菜や伝統食の干し芋が並び、多くの観光客で賑わっています。ここは軽費老人ホームとともに地元のNPOが指定管理者となっており、移住者も働いているそうです。
 さらに進むと、谷が深くなり道路の傾斜も急になってきました。やがて最も奥まったところにある星尾集落に到着。ここにIターン移住された方のご自宅で、こんにゃくの手づくりを体験させて頂きました。

 別の移住者の方が経営されている体験型古民家民宿では薪ストーブが焚かれ、渓流を望む各部屋には専用の露天風呂も備え付けられています(現在も営業されていることはホームページで確認できます)。さらに、干し芋づくりも体験させて頂きました。
 集落内を歩いていると、多くの方がにこやかに声をかけて下さいます。多くは高齢の方ですが、みなさん足腰も丈夫でお元気な様子です。

 渓谷や岩山など観光資源も豊富で、正直、この村が「消滅」することは想像できませんでした。食料もエネルギーもすべて外部に依存している大都市の方が、よほど持続可能性に乏しいのではないでしょうか。
 ちなみに南牧村の公式サイトには、「幸せ一番オープンな村」とあります。

[参考]
 拙ブログ「群馬・南牧村伝統食づくりツアー」(2017年12月)
  https://food-mileage.jp/2017/12/24/blog-67/
 幸せ一番オープンな村−群馬県南牧村公式サイト
  http://www.nanmoku.ne.jp/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−速水 融『歴史人口学で見た日本−増補版』(2021/5、大垣書店)−
 https://books.bunshun.jp/articles/-/7202

【ポイント】
 著者が江戸時代を対象に分析した「都市アリ地獄説」は、現代もスケールを拡大しつつ厳然と成り立っています。

速水 融(あきら)氏は1929年東京に生まれ、2019年に逝去されました。日本における「歴史人口学」の生みの親である著者の「自分史」として2001年に出版された本書が、増補版として2022年に改めて出版されたことに、最近の人口に対する関心(不安)の高まりが伺えます。帯には磯田道史氏とエマニエル・トッド氏の顔写真。

歴史人口学とは、各地に残された近世以前の原史料(古文書)を収集して当時の人口の動向を分析するという社会学の一分野とのこと。
 著者が注目した原史料の一つが、享保六(1721)年に八代将軍吉宗が始めた全国の「国別人口調査」で、以後、6年ごとに1846年まで継続されました。このような全国的な調査はヨーロッパにも存在しないそうです。
 これによると、当時の日本の人口は2600万人程度で、125年の間、大きな変動は見られません。しかしこの間、三度の大飢饉(享保、天明、天保)に見舞われています。そこで著者は、飢饉のあった危機年とそれ以外の平常年に分けて、地域別の人口増減を分析しました。
 その結果、危機年においてはほぼ全ての地域で人口が減少しているのに対して、平常年においてはほとんどの地域で人口は増加しているなかで、例外的に関東地方と近畿地方のみ減少していることが明らかとなりました。江戸あるいは京・大阪という大都市を含む地域で人口が減っているという、一見、不思議な状況がみられるのです。

このことについて著者は、「大都市は周辺の地域から人を引き付けておいて高い死亡率で人を殺してしまう」「江戸は住民にとって健康な地ではなく、周辺の農村地域から健康な人を吸い込まないと人口が維持できない」と分析し、「都市アリ地獄説」と命名しました。ヨーロッパにおいても同様の現象がみられるそうです。
 江戸時代の日本では、江戸への人口流出により、特に北関東(現在の群馬、栃木、茨城)における人口減少が顕著だったのです。

翻って現在、東京圏への人口流出は、関東のみならず全国に広がっています。東京圏一極集中はますます顕著となっています。
 また、厚生労働省「人口動態統計」によると2022年の合計特殊出生率は統計開始以来最低の1.26となりましたが、東京都は1.04と都道府県別でみて最も低くなっています。つまり、江戸時代を分析対象として著者が提唱した「都市アリ地獄説」は、現代でもスケールを拡大しつつ厳然と成り立っているのです。
 このことは、今般の人口戦略会議の分析(「豆知識」欄を参照)において、東京都の23特別区のうち16区が「ブラックホール型自治体」に分類されていることとも、符合しているものと思われます。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 元木上堰 春の浚いボランティア(福島・喜多方市山都)[5/7]
 https://food-mileage.jp/2024/05/07/blog-505/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ 語り芝居「武蔵野の歌が聞こえる」
  日時:5月12日(日)13:30〜14:45
  場所:小金井市公民館貫井南分館(東京・小金井市貫井南町4)
  主催:NPO現代座
 (詳細、問合せ等↓)
 https://gendaiza.org/

○ いま、なぜ「コモンズとしての食」を問うのか?
 日時:5月16日(木)19:00〜20:30
 講師:平賀 緑さん、小口広太さん
 場所:オンライン(zoom)
 主催:NPOアジア太平洋資料センター(PARC) 
 (詳細、問合せ等↓)
 https://parc-jp.org/events/20240516-commons/

○ 第25回 小農学会オンラインセミナー
  蔦谷栄一さん『生産消費者が農をひらく』出版記念
 日時:5月22日(水)19:30〜20:30
 講師:蔦谷栄一さん
 場所:オンライン(zoom)
 主催:小農学会 
 (学会HP)https://shounou-gakkai.com/
 [本セミナーへの参加を希望される方はこのメルマガに返信して下さい。]
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 ガザでの停戦交渉の進展に期待したいと思います。一方、ウクライナ情勢は、プーチン政権が通算5期目に入るなかでさらに混沌。どちらも早く停戦が実現して小咄が再開できればいいのですが。
 過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.292は5月22日(水)[和暦 卯月十五日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今年は北斎手帳)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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