本など(2013年7月)

 3連休が明けて過ごしやすくなりました。今朝(2013年7月17日)は雨がぱらついています。
 先日、CSOネットワークから「持続可能な社会をつくる共生の時代へ」という冊子をお送り頂きました。
 A5版55頁とコンパクトなものですが、内容は大変充実したものです。
130713_0_convert_20130717070328.png 副題は「農の力と市民の力による地域づくり 水俣~新潟~福島」。
 「今こそ農林漁業の価値を見直し、地域資源を生かした各地の地域づくりの実践に光を当てることが大切」というのが刊行の趣旨とのこと(CSOネットワーク事務局長・理事、黒田かをりさん)。
 学識経験者を含め、福島、新潟、水俣の現場で実際に取り組んでおられる方達が執筆されています。全体を通してのメッセージは私たち消費者に向けられたものです。
 PARC共同代表・大江正章さんは「農の力と市民の力は別々のものではない。耕す市民=市民農と農業者の協働が(本来の持続可能な社会に変えていく)原動力になる」(「あとがき」より)。
 なお、全文をCSOネットワークのウェブサイトからダウンロードできます(英文もあります)。ご関心のある方は、ぜひ、お読み下さい。
 他に、ここ1~2ヶ月の間で読んだ本の中から印象に残ったものを備忘的に。
 たくきよしみつ『裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす』(講談社、2011)は、F1(エフイチ、福島第一原発のこと。)25km圏に今も住む筆者が、肌で感じた被災地の事故時から現在までの実情が生々しく綴られています。
 事故直後、情報も指示も与えられない中で独自に一次避難した際は「原発を推進した国、積極誘致した県が、いとも簡単に周辺住民を見捨てた」と悔し涙にくれたこと。
 「半径20km圏」中心点さえ不明で、境界線を巡って様々な「攻防」があったこと(医療施設は境界外に線引き等)。
 多数のマスコミが同行した「一時帰宅ショー」「自家用車引き取りショー」の滑稽さ。
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 事故当時、小学校6年生だった女児の「抗議文」(自筆のコピー)も掲載されています。
 「原発は私の全てをうばった。故郷も仲間も、今までやってきたこともすべて。美しい、あたたかい故郷を返して下さい。」
 そして、「低線量長期被曝の影響は誰にも分からない。移住する権利もあれば居残る権利もある。どこで残りの人生をどう生きるかは哲学レベルの話。行政や政治が介入する権利はない」。「一人一人が生きたい人生をはっきり思い描けることこそが、フクシマを再生させる原動力」との結論。
 同じ著者の『3・11後を生きるきみたちへ-福島からのメッセージ』(岩波ジュニア新書、2012)では、「大切なのは、与えられた命を価値のある命として生ききること。とうぜん、答えは一つではない。自分に嘘をつかず、直面した問題から安易に逃げず、精一杯考えて、その状況の中で最善だと思う生き方を貫くこと」とのメッセージが綴られています。
130713_3_convert_20130714221314.png 桑子敏雄『環境の哲学-日本の思想を現代に活かす』(講談社学術文庫、1999)は、西行、慈円、熊沢蕃山、和辻哲郎等の事績や思想を紹介しつつ、日本における「空間」「自然」の捉え方の豊かさに着目しています。
 人間と自然は対立し分離可能なものと捉えらる西欧近代思想に対して、日本の伝統的な思想においては、自然(天地、山河大地)とは、空間と時間の中にある全てを(自分自身も)含む概念であるとのこと。
 「風土」とは五感によって総合的に知覚されるもの、「歌枕」は空間と言語を媒介するもの、「地名」とはそこで暮らす人々の記憶を空間に結びつける役割があること等が指摘されています。
 地域やコミュニティについて考える上で、示唆に富む本でした。
 地域づくりの関係では、まず、吉岡忍『奇跡を起こした村のはなし』(ちくまプリマー新書、2005)。
 新潟県の山間の小さな旧黒川村が、大規模リゾート施設等の誘致による「村ぐるみの六次産業化」により活性化に取り組んできた様子が綴られています。
 その原動力は、12期48年間(31歳から79歳まで)に及ぶ伊藤孝二郎村長(故人)の強力なリーダーシップ。
 「高度経済成長という魔物から村を守らなければならなかった。村役場がやらなければ、村がつぶれてしまうことはわかっていた」との言葉が紹介されています。
 海外派遣等を通じた積極的な人材育成への取組の様子が印象的でした。
 
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 この行政主導型とは対極にある取組が、協創LLP出版プロジェクト『愛だ!上山棚田団-限界集落なんて言わせない!』(吉備人出版、2011)で紹介されています。
 大阪で働く人たちが、岡山県の山間にある上山(うえやま)集落の棚田を再生したドキュメンタリ。2007年から3年4カ月の間に、のべ2000名が手弁当で草刈、開墾、水路掃除等に取り組みました。口絵にある再生された棚田の写真は、ある意味、衝撃的ですらあります。
 LLP(有限責任事業組合)という組織を立ち上げているのも特徴的です。
最後に、元NHK解説委員・中村靖彦先生からお送り頂いた『いつまでもあると思うな、水と食』(農林統計協会、2013)。
130713_5_convert_20130718070859.png 農業・食料問題を専門家でない人たちにも分かりやすく伝えるため、自選集「食と農を見つめて50年」(全6巻)を出版されることとされたそうです。
 テレビの解説や著書で、複雑な農業・食料問題を分かりやすく伝えてきて下さった中村先生らしく、牛肉自由化やコメの部分開放、戸別所得補償等の、その時々の政策に的確な評価を加えられています。
 「農業ジャーナリズムは衰弱している」との指摘も。
 戦時の疎開中の「ひもじさ」が原体験にあるという中村先生。
 「食の問題を突き詰めていくと、『この国をどんな国にしたいのか』『私たちはどう生きるのか』ということにつながっていく」と喝破されています。
 これからもNPO「良い食材を伝える会」の活動等を通じ、警句を発し続けて頂きたいと願う次第です。
 さて、今日(7月18日)からは早めの夏休みを頂いて会津に行ってきます。
 司馬遼太郎が「なにから書きはじめていいかわからないほどに、この藩についての思いが、私の中で濃い」(『街道をゆく33』)と記した、会津藩の歴史に触れてきたいと思います。
 夏休みが終わると参院選投票日。
 与党圧勝との世論調査の予測ですが、投票には行くつもりです。
【ご参考】
 ◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
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