【ほんのさわり】畑村洋太郎「未曾有と想定外」

畑村洋太郎『未曾有と想定外-東日本大震災に学ぶ』(講談社現代新書、2011年7月)

著者は1941年生まれの東京大学名誉教授・工学博士で、「失敗学」の提唱者として著名な方です。
 本書は東日本大震災の直後、東電福島原発事故調査・検証委員会(いわゆる政府事故調)の委員長に就任されるまでの短い期間に、一般読者向けに書かれた啓発本です。
 私は本書を2012年に1度読んでいたのですが、このたび再読し、その内容が全く色あせていないどころか、むしろ6年目を迎えた今こそ改めて胸に刻むべき多くの教訓が含まれていることが分かりました。

その一つは、「人は忘れる」という大原則があるということです。
 人間は本質的に忘れっぽい生き物で、これが前向きに生きるための一つの知恵になっているものの、失敗や災害の対策を考える時にはこの性質がマイナスにはたらくとのこと。
記憶が減衰する(忘れる)時間についても考察されています。
 個人レベルでは3日で飽き、3月で冷め、3年で忘れるとのこと。ルールに基づいて記録を残すこととなっている組織の場合でも、30年もすると忘れ去られていくそうです。より大きな共同体の場合では60年。そして300年も経つと社会としても忘れ去られてしまい、さらに1200年ともなると「完全になかったこと」になってしまうとのこと。
 ちなみに今回と同様、大きな津波被害をもたらした慶弔三陸地震は1611年(400年前)、貞観地震は869年(約1200年前)に起こりました。

そして、次のような寺田寅彦の言葉が引用されています。
 「災害を防ぐには、人間の寿命を10倍か100倍に延ばすか、あるいは地震や津波の周期を10分の1か100分の1に縮めるしかない。しかしそれができない相談であるとすれば、残る唯一の方法は人間がもう少し過去の記憶を忘れないように努力するよりほかはないであろう」

東日本大震災・原発事故から6年。
 まだまだ、畑村先生による組織や社会の「記憶が減衰する」期間よりも短い時間しか過ぎていませんが、果たして今の私たちは、6年前の記憶を十分に「忘れないように努力している」でしょうか。
なお、著者は大都市の防災機能が極めて脆弱であることについても警鐘を鳴らしています。

F.M.Letter No.114, 2017.3/12掲載】