【メルマガ】F.M.Letter No.114

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.114◇
 2017.3/12(日)[和暦 如月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識 「風評被害」に関する消費者意識
◆ O. カレント ふくしま 新発売。
◆ ほんのさわり 畑村洋太郎『未曾有と想定外』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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 東日本大震災と福島第一原発事故から6年。ある程度復興が進んでいる面もある一方、今も残る、あるいは複雑化している多くの課題もあります。
 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は如月十五日の配信です。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。

-「風評被害」に関する消費者意識-
 原発事故から6年目に入りましたが、福島県産の農産物の価格は、きゅうりなどの一部を除き、米を含む多くの品目では震災前の水準にまで回復していません。いわゆる「風評被害」の払拭が引き続き重要な課題となっています。

消費者庁は、2013年2月以降半年ごとに「風評被害に関する消費者意識の実態調査」を実施しています。
 対象は被災地域(岩手、宮城、福島、茨城)と被災地産品の主要仕向先である大都市圏(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫)の消費者です(回答数は5000人余)。
 さる3月8日、最新(第9回)の調査結果が公表されました。
 消費者庁発表資料によると「食品の産地を気にする理由のうち『放射性物質の含まれていない食品を買いたいから』とする人は減少傾向」「放射性物質を理由に福島県産品の購入をためらう人の割合はこれまでの調査で最少に」等とされています。

しかし調査結果をよくみると、「放射性物質の含まれていない食品を買いたい」及び「福島県産品の購入をためらう」とする人の割合は、調査が始まった2013年2月から2回続けて低下した後にいったん上昇し、その後はおおむね低下傾向で推移しているものの、その水準は14年8月時点と大きく変わらない水準にあるのです(リンク先の図69の棒グラフ)。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/03/69_fuhyo.pdf

本調査では、さらに懸念される状況も明らかとなっています。
 例えば「出荷制限されている食品の品目と地域についての情報をどこから得ていますか」との問に対して、「情報は特に得ていない」とする回答が2013年2月の36.3%から2017年2月には46.0%へと、10ポイント近く上昇しています。
 また、食品中の放射性物質について「検査が行われていることを知らない」とする回答は、同期間に22.4%から35.2%へと13ポイント近く上昇しています(リンク先の図69の折れ線グラフ)。
 さらに「放射線等について、あなたが知っていることをお答え下さい」という問については、「α線、β線、γ線といった種類がある」「食品中の放射性物質に関する単位にはベクレルとシーベルトがある」「被ばくには外部被ばくと内部被ばくがある」等の選択肢が並ぶ中、「知っているものは特にない」とする回答も、30.3%から35.1%へと上昇しているのです。

消費者サイドの方で、的確な知識や情報を得ようとする意識が希薄になっているとすれば、いわゆる「風評被害」はいつまでも無く鳴らないことが憂慮されるのです。

[参考]
 消費者庁「風評被害に関する消費者意識の実態調査(第9回)について」(2017年3月)
  http://www.caa.go.jp/earthquake/understanding_food_and_radiation/pdf/understanding_food_and_radiation_170308_0001.pdf
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
  http://food-mileage.jp/category/mame/

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方達やトピックス等を紹介します。

-ふくしま 新発売。-
 福島県産の農林水産物を応援する情報発信のために、福島県が運営しているサイトです。
 旬の食材、福島県産食材を使った飲食店やイベントの情報、地域特派員によるレポートなど様々なコンテンツに加え、福島県産農林水産物の放射性物質のモニタリング情報も掲載されています。

モニタリング情報は、品目別、地域別に検索できるようになっています。
 「品目で検索」のバナーをクリックすると、品目(例えば野菜全体でも、ホウレンソウなど個別の品目でも検索できます。)、採取日(○年○月~○年○月)、地域(福島県全体でも個別の市町村からも検索できます。)を選択できるようになっています。
 例えば「野菜全体」「2011年3月~2017年3月」「福島県全体」を選択して「該当するすべての農産物」を検索すると、最新の32品目のリストが表示されます。
 基準値を超過している品目はなく、ほとんどが「検出せず(<6.4)」等となっています。なお、数字は検出下限(Bq/kg)です。

このリストは641頁あるので、野菜だけで2万件以上の検査結果が掲載されていることになります。頁をめくっていっても基準値を超過している品目は現れません。
 そこで、先ほどと同じ条件で「基準値及び暫定規制値を超過した農産物のみを表示」させると、2013年1月に郡山市で採取されたコマツナを最後に、基準値を超過した野菜はないことが分かります。なお、超過した品目のほとんど2は、011年4月までに採取された品目であることも分かります。

このように、福島県産農林水産物中に基準値を超過している品目は最近はほとんどありません。ただし2016年においても、特定の品目(山菜3品目、淡水魚4品目、加工品3品目)では基準値を超過しています。
 福島県では、これらモニタリング調査(米については全袋検査)の結果をホームページで開示しており、誰でも確認できるようになっているのです。
 なお、全国の情報(月別検査結果)は厚生労働省のホームページで公開されています。

[参考]
 福島県ホームページ「ふくしま 新発売。」(農林水産物モニタリング情報を含む。)
  http://www.new-fukushima.jp/
 厚生労働省ホームページ「食品中の放射性物質の検査」
  http://www.mhlw.go.jp/stf/kinkyu/0000045250.html
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
  http://food-mileage.jp/category/pr/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。

-畑村洋太郎『未曾有と想定外-東日本大震災に学ぶ』(講談社現代新書、2011年7月)
 http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062881173

著者は1941年生まれの東京大学名誉教授・工学博士で、「失敗学」の提唱者として著名な方です。
 本書は東日本大震災の直後、東電福島原発事故調査・検証委員会(いわゆる政府事故調)の委員長に就任されるまでの短い期間に、一般読者向けに書かれた啓発本です。
 私は本書を2012年に1度読んでいたのですが、このたび再読し、その内容が全く色あせていないどころか、むしろ6年目を迎えた今こそ改めて胸に刻むべき多くの教訓が含まれていることが分かりました。

その一つは、「人は忘れる」という大原則があるということです。
 人間は本質的に忘れっぽい生き物で、これが前向きに生きるための一つの知恵になっているものの、失敗や災害の対策を考える時にはこの性質がマイナスにはたらくとのこと。
 記憶が減衰する(忘れる)時間についても考察されています。
 個人レベルでは3日で飽き、3月で冷め、3年で忘れるとのこと。ルールに基づいて記録を残すこととなっている組織の場合でも、30年もすると忘れ去られていくそうです。より大きな共同体の場合では60年。そして300年も経つと社会としても忘れ去られてしまい、さらに1200年ともなると「完全になかったこと」になってしまうとのこと。
 ちなみに今回と同様、大きな津波被害をもたらした慶弔三陸地震は1611年(400年前)、貞観地震は869年(約1200年前)に起こりました。

そして、次のような寺田寅彦の言葉が引用されています。
 「災害を防ぐには、人間の寿命を10倍か100倍に延ばすか、あるいは地震や津波の周期を10分の1か100分の1に縮めるしかない。しかしそれができない相談であるとすれば、残る唯一の方法は人間がもう少し過去の記憶を忘れないように努力するよりほかはないであろう」

東日本大震災・原発事故から6年。
 まだまだ、畑村先生による組織や社会の「記憶が減衰する」期間よりも短い時間しか過ぎていませんが、果たして今の私たちは、6年前の記憶を十分に「忘れないように努力している」でしょうか。
 なお、著者は大都市の防災機能が極めて脆弱であることについても警鐘を鳴らしています。

[参考]
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
  http://food-mileage.jp/category/br/

◆ 情報ひろば
  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 「福島の基礎知識2017」@番來舎 (2/28)
  http://food-mileage.jp/2017/02/28/blog-4/

○ 吉田俊道さん講演会「菌ちゃんが地域と地球を救う」 (3/5)
  http://food-mileage.jp/2017/03/05/blog-5/

○ 目白台・江戸川橋界隈まち歩き (3/9)
  http://food-mileage.jp/2017/03/09/blog-6/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
  既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ 共奏キッチン♪@自由が丘シェア奥沢74
 日時:3月13日(月)18:00~22:00
 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢2)
 主催:共奏キッチン
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/342071776189198/

○ かなしみを生きるちからに[入江杏先生]
 日時:3月14日(火)19:00~21:00
 場所:番來舎(東京・目黒区駒場1)
 主催:番來舎
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/1718199185175043/

○ 小さな農と生きがいのある人生~「半農半X」という生き方
 日時:3月19日(日)14:00~16:00
 場所:クリエイトホール(東京・八王子市小比企町)
 主催:八王子市生涯学習センター
 (詳細、お問合せ等↓)
  http://www.city.hachioji.tokyo.jp/event/007/p020517.html

○ 春を満喫!ピザ作り勉強会
 日時:3月25日(土)10:00~14:00
 場所:磯沼ミルクファーム(東京・八王子市小比企町)
 主催:多摩・八王子江戸東京野菜研究会
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/1735893433407304/

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*今号のコツコツ小咄。
 「ミツバチを飼っていると、明日の天気も分かるんですよ」
 「天気予報(養蜂)ですね」
 
 注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)投稿中です。
  拙ウェブサイトにも掲載しています。
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.115は、3月28日(火)[弥生朔日]の配信予定です。
  より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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