【ほんのさわり】三浦しおん『神去なあなあ日常』

-三浦しおん『神去なあなあ日常』(2012年9月、徳間文庫)-

直木賞・本屋大賞作家の三浦しをんさんによる「青春林業小説」です。
 主人公の平野勇気クン(18歳、横浜在住)は、高校卒業後、適当にフリーターでもして食っていこうと思っていたのが、ひょんなことから三重県の山奥にある神去村(かむさりむら)に林業研修生として放りこまれてしまうんだ。
 ちなみに「なあなあ」とは、「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」ってニュアンスの村の人たちの口癖。神去の人たちが「なあなあ」を大事にしているのは、百年単位でサイクルする林業に携わっている人が多いためらしい。

都会っ子の主人公には林業の仕事はキツく、ダニやヒルも襲来するし、ケータイも使えずコンビニもない田舎の生活にも馴染めない。最初のうちは何とか逃げ出すことばかり考えていた。
 しかし、山を守る男たちやその家族と交流するなかで、次第に森の素晴らしさに惹かれ、夏休みの頃には「一時だって神去村から離れたくない」と思うようになったんだ。

村の長老・三郎じいさんの
「俺たちは山にお邪魔させてもらっとるちゅうことを忘れては、神去の神さんに怒られるねいな」、
やはり林業に従事する巌さん(子どもの頃、神隠しにあったらしい!)の
「手入れもせんで放置するのが『自然』やない。うまくサイクルするように手を貸して、いい状態の山を維持してこそ、『自然』が保たれるんや」といった言葉も出てくる。

そして終章の主人公の独白。
「俺は多分、このまま神去村にいると思う。林業に向いているかどうか、まだわからない。このさきの展望が開けるかどうかも、はっきりしない」
「たしかなのは、神去村はいままでもこれからも、変わらずここにあるってことだ」
「神去村の住人は、『なあなあ』『なあなあ』って言いながら、山と木に包まれて毎日を過ごしている。虫や鳥や獣や神様、神去村にいるすべての生き物と同じように、楽しく素っ頓狂にね」

仕事や恋愛を通した勇気クンの成長ストーリーにハラハラ、ドキドキしながら、日本の林業や山村の現状と展望についても学べる素晴らしい小説です。

F.M.Letter No.117, 2017.4/26 掲載】