小田切徳美、広井良典、大江正章、藤山浩
『田園回帰がひらく未来-農山村再生の最前線』(2016.5、岩波ブックレット)
https://www.iwanami.co.jp/book/b243801.html
本書は2015年11月に開催されたシンポジウム(3名の基調スピーチ及びパネルディスカッション)の内容をまとめたもの。
まず広井良典さん(京都大こころの未来センター教授)は、現在、若い世代のローカル志向が顕著になっているのは、これからの時代に発展が期待される領域(福祉、環境、農業等)がローカルな性格を有しており、問題解決もローカルなレベルにシフトしていることを反映しているためと分析されています。
そして、人口減少の時代を「本当の豊かさや幸福を考えていく時代への入り口」とポジティブに捉えるべきとし、「いまの日本は定常型社会のあり方を先導的に実現し発信していくポジションにある」とします。
小田切徳美さん(明治大農学部教授)は、独自の調査結果を基に、現に相当数の移住者はいるものの地域差が大きいことを明らかにした上で、魅力的な地域づくり(「地域みがき」)の重要性を強調しています。つまり、移住者が多い地域は「田園回帰と地域みがきの好循環が生まれつつある地域」と分析しています。
大江正章さん(ジャーナリスト、コモンズ代表)は、「消滅可能性」が高いとされる群馬・南牧村、埼玉・小川町、福島・旧東和村に実際に足を運び、これら地域に「未来を拓く可能性」を見出されたとのこと。
後半は「人口1%取戻し戦略」で有名な藤山浩さん(島根・中山間地域研究センター)をコーディネータに、実際に移住されて活躍されている3名の方によるパネルディスカッションで、具体的な取組み事例は大いに参考になり、触発されます。
都市と農村が互いに支えあう持続的な社会の創造に向けての、若物を中心としたムーヴメントが田園回帰とのこと(小田切さん)。本書は、その基本的なデータや具体的な実践事例をコンパクトに知ることのできる好著です。
[参考]
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
http://food-mileage.jp/category/br/
【F.M.Letter No.127, 2017.9/20配信】掲載