【メルマガ】 F.M.Letter No.151

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.151◇
 2018年9月10日(月)[和暦 葉月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識  1人当たり米収穫量の長期推移
◆ O.カレント  柏木智帆さん(お米ライター)
◆ ほんのさわり 原田信男『コメを選んだ日本の歴史』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 カレンダーは9月に。時候は二十四節気「白露」の初候・草露白(くさのつゆしろし)。
 豪雨、台風被害に続いて北海道で大きな地震。今年は大きな災害が相次ぎます。被災された皆様にお見舞い申し上げます。
 和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している拙メルマガ、今号は 2018年9月10日(月)[和暦 葉月朔日] の配信です。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。

-1人当たり米収穫量の長期推移-

前号では、日本における水稲収穫量の長期的な推移を紹介しました(リンク先の図104の橙色の折れ線)。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2018/08/104_kome.pdf

1933年頃までは収穫量は順調に増加しましたが、戦争の影響により伸び悩むようになり、終戦の年の1945年には一気に落ち込みました。戦後に入ると一転して増加しますが1967年にはピークを迎え、その後は生産調整が実施されるようになったこと等により右肩下がりで推移しています。

一方、日本の人口はこの間ほぼ一貫して(1945年を除いて)増加し、2009年には 1883年の 3.4倍となっています(リンク先の図105の青色の折れ線))。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2018/09/105_kome2.pdf

そして緑色の折れ線が、国民1人当たりの米の収穫量の推移です。
 これによると、1883年においては 122kg/人だったのが1920年頃までは増加傾向で推移しましたが、人口の増加もあり、戦後の1953年頃までは減少を続けます。
 その後は1967年までは増加するものの一転して減少傾向で推移するようになり、2014年には 67kg/人となっています。これは、米騒動が起こった1918年の 46%、飢餓に苦しんだ終戦の年に比べても 83%という低い水準です。
 これは、私たちの食生活パターンが大きく変化(畜産物・油脂消費の急拡大)したためです。

[参考]
 農林水産省「作物統計調査」(収穫量累年統計、水稲、全国)
  https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tclass=000001024932&cycle=0&layout=datalist
 
総務省「国勢調査報告」「人口推計資料」等
  http://www.stat.go.jp/data/chouki/02.html

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。

-柏木智帆さん-

柏木智帆(かしわぎ・ちほ)さんは神奈川県の出身。新聞記者としてお米やお米文化についての取材活動を続けるうち、「これはただの農産物ではない」とお米に魅せられていきます。

ついに「現場を知らずに記事を書くのはもどかしい」と8年勤めた新聞社を脱サラ、千葉県の営農組合に転職されました。ここで米生産の作業を学び、翌年には「無謀にも」(本人談)独立、45アールの水田で機械も農薬も使わずに米生産に取り組みます。
 また、中古車を改造して炊飯器を積載、おむすびの移動販売も始められます。しかしキッチンカーが故障で廃車になったこともあり、改めて「米の消費拡大のために自分だからできることをやっていこう」と考え、鍬を再びペンに持ち替えました。
 現在はフリーランスの「お米ライター」として活躍中です。

お米を中心とした日本の食文化の再興、お米の消費拡大等をテーマに、新聞、雑誌、ネット、ラジオ等の媒体を通して、あるいはワークショップの講師等として、積極的に情報発信されています。

ご自身は、昨年、福島・猪苗代で400年続く農家の男性と結婚。
 ライター業の傍ら、繁忙期は約20haの有機米等の生産のお手伝いをするなど、2足の草鞋(わらじ)を履いて活躍中です(草鞋も稲わらで作られます)。

2018年8月17日付けの日本農業新聞、20回続いた連載コラムの最終回の最後を、柏木さんは次のような言葉で締めくくられています。
 「私たちが、何をどう作るか、どう食べるか、何をどう売るか、何をどう食べるか。その一つ一つはたとえ小さくても、いつかの日本の水田風景や私たちの食卓に大きく影響することを心にとめたい」。
 さすが、おむすび大好きの柏木さんらしい見事な「むすび」の文章です。

[参考]
ブログ「柏木智帆のお米ときどきなんちゃら」
 https://chihogohan.hatenablog.com/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。

-原田信男『コメを選んだ日本の歴史』(2006/5、文春新書)-
 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166605057

1949年生まれの著者の専門は生活文化史で、食文化についても多くの著作があります。本書は、日本の歴史を通して、いかに米が大きな役割を果たしてきたかを明らかにしています。

弥生時代に渡ってきた水田稲作システムは、日本の人口や社会に大きなインパクトを与えました。
 その生産力の高さにより社会的剰余を生み出すことで、クニ(古代国家)の形成が始まり、やがて激しくなった戦争(軍事力の背景にも米がありました。)を経て統一国家(ヤマト政権)が成立します。

律令国家における天皇の統治力の源泉は、米を中心とした祭祀権(新嘗祭など)でした。
 やがて米は“聖なる”食べものとしての地位を高めていきます。肉食禁止令も水田稲作の円滑な推進のための方便(米の生産手段であるウシ、ウマの保護)だったとのこと。
「太閤検地」は全国の土地生産力を米に換算することにより行われました。そして米を経済的価値の基準とする体制は、江戸幕府による石高制により完成したのです。

明治政府による近代国家建設の基礎も米に置かれました。地租改正の基準は米価であり、朝鮮・台湾等の植民地でも米作が奨励され、第二次大戦中には、主食を国家が直接的に管理するという世界的にも珍しい仕組み(食糧管理法)まで導入されたのです。

戦後の高度経済成長に入ると食生活の多様化により米の需要は激減しましたが、著者は、それでも日本人の米に対するこだわりには根強いものがあるとしています。
 コシヒカリなどに対する過度のブランド志向は作付品種の均一化を招いており、異常気象等による不作のリスクが高まっているとし、「今後、どのようにコメと付き合っていくのか、改めて考えていく必要がある」と警鐘を鳴らしているのです。
 日本における米と稲作の「通史」を知るためには、大いに参考になる本です。

ちなみに最近、新聞を含めて米を「コメ」とカタカナ表記するのが一般的になっています。
 これは米国(アメリカ)との混同を避けるためなのでしょうが、本書のように米の重要性を論じる本においてもカタカナ表記されていることには、違和感を禁じ得ません。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 2018年 夏のバー2題(東京・秋葉原、三鷹)[8/26]
 http://food-mileage.jp/2018/08/26/blog-129/

○ 飾り巻き寿司教室~夏の食べ物編(@なみへい)[8/30]
 http://food-mileage.jp/2018/08/30/blog-130/

○ 共奏キッチン@仙人の家#1(西東京市)[8/31]
 http://food-mileage.jp/2018/08/31/blog-131/

○ 本処せな読集会『マイパブリックとグランドレベル』(東京・新橋)[9/1]
 http://food-mileage.jp/2018/09/01/blog-132/

○ 小松理虔さん『新復興論』(@ゲンロンカフェ)[9/6]
 http://food-mileage.jp/2018/09/06/blog-133/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

【筆者が登壇するイベント】
 ○ Food Q
 -Social Good+食Week(ソーシャルグッドな食ウィーク)-
 日時:9月18日(火)~28日(金)
 場所:東京ミッドタウン日比谷(東京・千代田区有楽町1)
 主催:BASE Q
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.hibiya.tokyo-midtown.com/foodq/

● Session 7「食×社会課題」にパネリストの1人として登壇します。
 9月27日(木)19:00~22:00

【その他】
 ○ 銀座農業コミュニティ塾 第5回勉強会
 日時:9月11日(火)19:00~21:00
 場所:中央区立環境情報センター(東京・中央区京橋3)
 主催:銀座農業コミュニティ塾
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/710001042668708/

○ 市民科学談話会
 「原発事故が飯舘村にもたらしたもの-事故から7年の記録」
 日時:9月12日(水)19:00~
 場所:市民科学研究室事務所(東京都・文京区湯島 2)
 主催:市民科学研究室
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.shiminkagaku.org/csijseminar_20180912_/

○ 大賀芸術祭2018 棚田deアート「YAHHO」
 日時:9月16日(日)18:00~21:30
 場所:仙人の家(東京・西東京市東伏見5)
 主催:赤木美名子さん
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/865974636940890/

○ 共奏キッチン♪@自由が丘シェア奥沢
 日時:9月17日(月)18:00~21:30
 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢2)
 主催:共奏キッチン
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/825430784308674/

○ 共奏キッチン@仙人の家#2
 日時:9月24日(月)18:00~21:30
 場所:仙人の家(東京・西東京市東伏見5)
 主催:共奏キッチン@仙人の家
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/684572891941063/
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*今号のコツコツ小咄
「子ども達がご飯粒を一所懸命に見つめていたね」
「つぶ(粒)らな瞳だったね」

なお、コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号 No.152は9月24日(月)[和暦 葉月十五日]の配信予定です。
 より役立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
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 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
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 発行システム:『まぐまぐ!』
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